ARTICLES & REPORTS

日本における映画政策の展開
―「これからの日本映画の振興について」以降の20年―(1)

ARTICLES
2024年6月19日

2001年に文化芸術振興基本法が公布されたことを受けて、「映画振興に関する懇談会」が文化庁を中心に立ち上げられ、2003年に提言「これからの日本映画の振興について~日本映画の再生のために~」が発表され、12本の柱が政策の方針として掲げられました。

「日本における映画政策の展開―『これからの日本映画の振興について』以降の20年―」は、2003年の「提言」以降、映画振興策がどのように実現してきたのか、しなかったのか、掲げられた12本の柱の一つ一つを丁寧に検証しています。

このような検証がなされることは非常に貴重であり、現在の映画振興策の動向を考える上でも、重要な資料となります。

2023年3月発行「映画上映活動年鑑2022」に掲載したものです。

ぜひ最後までお読みください。(2回に分けて掲載しています。)


日本における映画政策の展開

―「これからの日本映画の振興について」以降の20年―(1)

川村健一郎(立命館大学映像学部教授)

はじめに

2001年に、「映画」をメディア芸術として国の文化振興の対象とした文化芸術振興基本法(現・文化芸術基本法)が施行され、これを受けて、2002年に文化庁長官の裁定によって立ち上げられたのが「映画振興に関する懇談会」だった。製作者、上映者、映画ジャーナリストなど、幅広い映画関係者が一同に会し、総務省、経済産業省、国土交通省といった関係省も加わったこの懇談会は、2003年4月に、政策の方針として「12本の柱」を掲げた「これからの日本映画の振興について~日本映画の再生のために~」という提言を発表する(以下、「提言」という) [注1] 。この「提言」に示された方向に沿って、2003年度から「日本映画・映像振興プラン」(2019年度から「日本映画の創造・振興プラン」)が施策パッケージとしてスタートし、「提言」から20年が経った現在も、この政策フレームのもとで、様々な映画振興施策が展開されている。

当初の施策パッケージである「日本映画・映像振興プラン」は、「提言」の内容を、「魅力ある日本映画・映像の創造」、「日本映画・映像の流通の促進」、「映画・映像人材の育成と普及等」、「日本映画フィルムの保存・継承」の4つの分野に整理していたが、その後の展開も踏まえてもう少し細かく「提言」が掲げていた政策理念を分類すると、「映画保存」、「製作支援」、「上映支援」、「海外発信」、「人材育成」、「顕彰」ということになるだろう。

他省庁の映画振興策

こうした文化庁の取り組みの一方で、2003年には、知的財産戦略本部が内閣府に設けられた(知的財産戦略本部は、現在に至るまで、毎年度「知的財産推進計画」を発表し[注2]、そのときどきの経済状況や市場環境にあわせて、政策的方向を打ち出している)。2004年には「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律」が施行され、映画は、音楽、演劇、文芸、写真、漫画、アニメーション、コンピュータゲーム等とともに、「コンテンツ」に定義されることにもなった。ここでは、基本的施策として、人材育成、技術開発促進、知財保護、流通・保存の促進、活用機会の格差是正、地域特性を生かしたコンテンツ創造、国民理解の増進が謳われている。映画振興施策は、文化振興の枠組みを超えて、こうした動向とも深く関わりをもっている。
ここでは、こうした経緯にも目配りしつつ、文化庁を中心に、他の省庁や独立行政法人にも広がっている映画政策の現状を整理する。その際には、各省庁の予算文書などを参照しながら、先にあげた「映画保存」、「製作支援」、「上映支援」、「海外発信」、「人材育成」、「顕彰」の分類に沿ってそれに対応する2022年度予算および事業内容を取り上げ、多岐にわたる映画振興施策を俯瞰できるようにしたい。ただし、これまでの20年間で恒常的に実施されてきた施策を中心に取り上げるため、コロナ禍において時限的に実際された「ARTS for the future!」(文化庁)、「コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業」(経済産業省)はここでの対象にしないこととする。

注1 これからの日本映画の振興について 日本映画の再生のために(提言)

2001(平成13)年に「文化芸術振興基本法」が制定されたことを機に、文化庁は、映画の振興を図るため、「映画振興に関する懇談会」(座長:高野悦子)を設置した。懇談会は、2002年5月から約1年にわたって行われた。懇談会には文化庁のみならず、経済産業省等の関係省も参加、映画の製作、上映等が文化活動であるとともに産業活動であることを正面からとらえ、映画界の構造や枠組みも見据えた横断的な視点から、国としての必要な施策が検討された。上映関係者としては、座長をつとめた高野悦子氏(岩波ホール総支配人)のほか、北條誠人氏(ユーロスペース支配人)、奈良靖彦氏(全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)理事)らが委員として参加した。      
2003年(H15)4月、「これからの日本映画の振興について~日本映画の再生のために(提言)」を提出した。       
懇談会の議事録や中間まとめ等、「映画振興に関する懇談会」に関する資料は文化庁ホームページで見ることができる。    

注2 初年度の2003年度は「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」、翌年度から「知的財産推進計画」に名称変更。

Ⅰ 製作支援

2. 新たな製作支援形態の導入 ~新たな形で幅広く製作支援ができるように~

(1)日本映画製作支援(日本映画の創造・振興プラン)

文化庁による「映画製作への支援」は20年前の施策パッケージ「日本映画・映像振興プラン」の中核にあり、それは現在の「日本映画の創造・振興プラン」においても変わりはない。
実のところ、同様の取り組みは「日本映画・映像振興プラン」が立ち上げられる前からあり、「芸術団体重点支援事業」として、音楽、演劇などの舞台芸術とともに「トップレベルの映画製作」に対する支援が行われ、また「映画芸術振興事業」として、「地域において企画された作品、地域を題材に企画された作品」の製作活動が支援されていた。なお、この「映画芸術振興事業」には地域で開催される映画祭等の支援も含まれている。
「日本映画・映像振興プラン」では、このフレームは概ね引き継がれ、そこに新たに若手の作り手の支援を加えて、「意欲的な企画作品の映画の製作」、「新人監督やシナリオ作家を起用した映画の製作」、「地域において企画・制作される映画の製作」の3分野で公募が実施されるようになった。

芸術文化振興基金が日本映画の製作支援の運用を担う(2009年度~)

同時に、2003年度以前から芸術文化振興基金が運用益により「映画の製作活動」への助成を行っており、これも2003年度以降、上記の文化庁による支援と並行して継続されている。結局、2009年度には両者が一本化され、文化庁が拠出する文化芸術振興費補助金[注3]を財源として、芸術文化振興基金が日本映画の製作支援の運用を担うことになって現在に至っている。
対象は、劇映画、記録映画、アニメーションである。劇映画は申請にあたって、製作費の下限を5,000万円としていたが、2018年度から、中小の製作会社や若手の作り手に配慮して、これを1,500万円に引き下げている。同年度に、製作期間が2ヶ年にわたる場合がしばしばあることを勘案して、2ヶ年助成の制度も導入された。また、2022年度には、製作作品が応募作品も含めて3本以内の若手・新進監督を起用した作品に、助成額を増やす取り組みも始まっている。

– 知的財産戦略本部「映画の振興施策に関する検討会議」

その背景には、2015~2016年度にかけて、知的財産戦略本部のもとで「映画の振興施策に関する検討会議」が実施され、2016年度末に報告書がまとめられたことがあった。議題のひとつが「映画の製作支援・資金調達」であったのだが、そこではクラウドファンディングの活用や海外配信事業者による映画製作など、資金調達の方法が多様化していることを受け、税制の見直しなどの「後押し」の必要性が継続的に指摘される(この指摘自体は「提言」のときから変わっていない)とともに、日本の映画製作を支えている「中小制作会社や独立系の作り手への創作機会の付与の必要性」や「複数年に亘る柔軟な運用」という課題が提起されている。申請条件としての製作費の下限の引き下げや2ヶ年助成は、この課題に応えたものと言えるだろう。

– 2011年度 国際共同製作の支援がスタート

2011年度には、文化庁本体で、1億円以上の製作費の劇映画およびアニメーションを対象に、国際共同製作の支援が始まっている。申請者は「国際共同製作企画の認定」を受ける必要があり、認定は経産省の委託事業として、制度立ち上げとともに、ユニジャパンが担うことになった。この「認定」は2020年度をもって終了し、現在は「認定」なしで申請が可能となっている。2018年度には日中映画共同製作協定が2ヶ国間で締結され、日本と中国を含む複数国での合作(長編劇映画)に支援が行われることになった。なお、日中映画の製作において国際共同製作の助成を受けるためには、現在もユニジャパンによる「認定」が必要であり、これに限って、上記の認定制度の廃止とは別の扱いになっている。
2022年度予算は7億4,000万円で、これには日本映画製作支援(上限2,150万円)、国際共同製作支援(上限1億円)、バリアフリー字幕、音声ガイド、多言語字幕制作(それぞれ上限100万円)が含まれている。予算は2014、2015年度の6億5,300万円から再び増加傾向にある。

3. 地域におけるロケーション誘致への協力 ~いろいろな場所でもっとロケーションが行えるように~

 (2)ロケーション支援

①ロケーションデータベースの運営(日本映画の創造・振興プラン)

2000年を境に、ロケーションサービスを担うフィルムコミッションが全国各地に誕生し、2001年にはこれらのフィルムコミッションを母体に、全国フィルム・コミッション連絡協議会が設立された(のち、2009年に特定非営利活動法人ジャパン・フィルムコミッションに改組)。こうした状況を背景に、「提言」にも、「地域におけるロケーション誘致への協力」が「12本の柱」のひとつとして謳われている。

– 全国ロケーションデータベース(JL-DB)

文化庁による全国ロケーションデータベース(JL-DB)は2006年に立ち上げられており、「ロケーションデータベースの運営」として、2007年度から毎年度予算が計上されている。その額は、2010年代は1600~2000万円台を推移していたが2019年度に倍増、2020年度にはさらに倍増して7500万円になった。2022年度予算には6100万円が計上されている。その理由は、2019年度以降、下記②で触れる「全国のフィルムコミッションの機能強化」が当該事業に含まれることになったからである。

委託事業として、JL-DBの機能強化や情報のアップデートが随時行われるようになっており、「全国ロケーションデータベースの利用促進等のための調査研究」として、VIPOがこれを受託している(ジャパン・フィルムコミッションとの協業)。2022年度にはJL-DBアプリ(パノラマ表示、地形表示、SNS共有機能を拡充)の運用も始まっている。

なお、本事業は、2023年度から国立映画アーカイブとの連携によって運営され、その経費は国立映画アーカイブの運営交付金から充当されることになっている。

②ロケ撮影の環境改善

– ロケ撮影の環境改善に係る官民連絡会議の設置(内閣府)

上記の知的財産戦略本部における「映画の振興施策に関する検討会議」(2015-2016)のもうひとつの議題が「ロケーション支援を巡る現状と課題」であった。これを受けて、内閣府に、関係団体・企業の代表者、有識者、関係省庁の委員をメンバーとする「ロケ撮影の環境改善に係る官民連絡会議」が設置された。この関係省庁には、内閣府、文化庁、経産省、国土交通省、総務省、外務省、警察庁、消防庁、観光庁、東京都産業労働局が含まれている。
これらの政策議論をふまえて、道路使用・占有の許認可の円滑化のため、警察、消防の現場レベルでの制度認識の徹底を進めることなどを目的に、2020年には「ロケ撮影の円滑な実施のためのガイドライン」が定められた。

– 「全国ロケーションデータベースの利用促進等のための調査研究」

また、2019年度から、ジャパン・フィルムコミッションは、フィルムコミッション間の連携強化を進めるため、広域的な撮影を支援したり、蓄積の少ないフィルムコミッションをサポートしたりする役割として、ロケ支援の経験が豊かなスタッフをエリアマネージャーとして選出する取り組みを試験的に導入しているが、そのための経費は上記の「ロケーションデータベースの運営」事業(業務名は「全国ロケーションデータベースの利用促進等のための調査研究」)から支出されている。

– 「地域経済の振興等に資する外国映像作品ロケーション誘致に関する実証調査事業」(内閣府)

インセンティブに乏しいとされる日本で、海外作品のロケーション誘致が進んでいない課題については、内閣府が2018年度から「地域経済の振興等に資する外国映像作品ロケーション誘致に関する実証調査事業」をスタートさせている(第2次補正予算、1億8,000万円)。この事業は、日本でロケされた海外作品に対して、製作費の一部を補助し、そのインセンティブとしての効果を検証する取り組みであり、2022年度も「デジタル時代に向けた大型映像作品ロケーション誘致の効果検証調査事業(外国映像作品ロケ誘致プロジェクト)」と名称を変更して継続的に実施されている(VIPOが受託、内閣府の2021年度補正予算で1億3,000万円が計上されている)。

– 観光庁「テーマ別観光による地方誘客事業」~ロケツーリズム

2016年度には、観光庁が「テーマ別観光による地方誘客事業」を予算化(7,000万円)している。そこでの取り組みの一つに、「エコツーリズム」、「酒蔵ツーリズム」などと並んで、映画・テレビのロケ地に観光客を誘致する「ロケツーリズム」があげられている。モデルケース形成がその目的で、「ロケツーリズム」は2019年度までその対象になっていたが、現在は「ロケツーリズム」への支援は終了している。

注3 2009-2011年度まで「芸術創造活動特別推進事業」の名目。

Ⅱ 上映支援

4. 非映画館も活用した上映機会の拡大 ~映画を見られる場がもっと増えるように~
6. 国内映画祭の普及・発信機能の充実 ~映画祭がもっと盛んになるように~

(1)国内映画祭等の活動支援(芸術文化振興基金)

2004年度3億6000万円⇒⇒2009年度1億8950万円⇒⇒2022年度6060万円

現在は、芸術文化振興基金がその運用益によって、年度ごとに2回に分けて「国内映画祭等の支援」を実施している。この事業は、全国各地で開催されている「国内映画祭」、および「日本映画上映活動」(日本映画を含む企画上映)の支援から成る。2022年度の活動に対する助成実績は、国内映画祭が31件5,670万円、日本映画上映活動が8件390万円で、合計6,060万円であった。
映画上映に対する支援は、2004年度から「日本映画・映像振興プラン」における「日本映画・映像の流通の促進」の枠組みで始まっていた。「国内上映・映画祭の支援」として「新たな上映機会の提供」に1億2,600万円、「国内映画祭支援」に2億3,400万円、合計3億6,000万円が2004年度には予算化されたが、こうした上映支援の施策は2008年度で終了し、2009年度以降、芸術文化振興基金の「国内映画祭等の支援」に移行している。その2009年度の支援実績は「国内映画祭支援」が29件1億7,940万円、「日本映画上映支援」が19件1,010万円、合計1億8,950万円で、2004年度の文化庁予算額の約半分である。それでも、現在に比べると約3倍の助成実績があった。

「上映」が政策対象から外されている

東京国際映画祭は2009、2010年度のみ、芸術文化振興基金の「国内映画祭等の支援」の対象になっていたが、2011年度から「海外発信」を主眼に、文化庁が直接的に支援する形となり、予算も文化庁に移行したことも芸術文化振興基金の助成額の減少の一因ではある。しかし、2009年度時点での東京国際映画祭への助成額が4,750万円だったことを考え合わせると、明らかに、減少の原因はそれだけではない。むしろこれは「上映」そのものが政策対象から外されてしまっていることの表れであろう。

5. 多様な映画作品情報と上映者の出会いの場の形成 ~いろいろな映画がもっと上映されるように~

(2)「日本映画情報システム」の整備(日本映画の創造・振興プラン)⇒2022年度終了

2003年度に取り組みが始まり、2006年5月に公開された「日本映画情報システム」は、1896年以降の日本映画の情報を集積したデータベースであり、その整備には、情報更新とメンテナンスに伴って、毎年度、予算が計上されてきた。
なぜ本事業が「上映支援」に当たるかと言えば、もともとこのデータベースが「日本映画作品に関する情報を総合的に把握」することによって、その情報を「フィルムの収集・保存に役立てる」だけでなく、「映画祭の活性化を図るため、日本映画のフィルムの利活用の円滑化に資する」ことが目的だったからである。各作品の情報に「作品の問合せ先」という項目があるのはそれが理由で、当初はこうした問合せ先情報を網羅することで、上映関係者による作品へのアクセスを容易にすることが可能になると構想されていたのであろう(とはいえ、現在のデータベースを確認しても、「作品の問合せ先」は空欄のままである)。すでに汎用的な映画データベースがネット上に数多くある中で、上映に役立てる機能も見出せぬまま、この日本映画情報システムはその役割を終え、2023年3月末で閉鎖されることになっている。
2022年度予算は500万円であり、データベースのための情報収集業務は一貫して株式会社キネマ旬報社が受託している。

11. 子どもの映画鑑賞普及の推進 ~子どもが映画を見られる機会が増えるように~

(3)文化芸術による子供育成推進事業(文化庁)

この事業は「日本映画の創造・振興プラン」とは直接的な関係はない。しかし、こうした「子供育成」の事業に、なぜ「上映支援」の枠組みで触れるのかと言えば、もともと「日本映画・映像振興プラン」において、「映画・映像人材の育成と普及等」という名目のもと、後述のndjcなどと並んで、「子どもへの日本映画の普及-子どもの映像学習・映画鑑賞推進のための普及事業-」が掲げられていたからである。この取り組みは、小中学生と教職員を対象に、映画館での日本映画の鑑賞機会を提供する(選定された日本映画の鑑賞を入場無料で実施する)ものであったが、残念ながら、2009年度までで姿を消すことになった。当初の5,400万円ほどの予算から次第に減少し、最終年度の2009年度は3,600万円だった。

さて、「文化芸術による子供育成推進事業」は、2022年度から新規事業として始められたことになっているが、以前から同様の取り組みが長年にわたって続いてきた。前身は「文化芸術による子供育成総合事業」という。音楽、舞踊、演劇などの実演芸術を中心とした、学校の体育館や文化施設で実施される巡回公演、小中学校などへの芸術家の派遣が本事業における主な活動である。

実演芸術が中心ではあっても、これらの活動から「映画」が排除されているわけではない。2022年度の巡回公演内容を見ると、1団体のみではあるが、一般社団法人こども映画教室の活動が含まれている。芸術家の派遣でも、わずかに2件ほど、映画に関わっている内容がある。

2022年度には、巡回公演が約2,000件、芸術家の派遣が約3,000件想定されている。他に、小中学校、特別支援学校での障害者芸術団体による公演提供などを行う「ユニバーサル公演」(100件)、博物館や公共ホールを会場として活用する「文化施設等活用」型の公演(100件)、芸術を活用して子どもたちの「コミュニケーション能力向上」を図る創作ワークショップ(200件)、さらに「芸術教育における芸術担当教員等研修」が実施される。予算は総額で55億4,500万円となっている。

上記の通り、「提言」の「4.非映画館も活用した上映機会の拡大」には、「映画館(シネマコンプレックスを含む。)自体が、大手配給会社による配給に限らない多様な作品の上映機会を提供する必要がある」と明記されている。つまり、「上映支援」はもともと「映画館」が「多様な作品の上映機会を提供する」ための施策であったはずなのである。現在ではその痕跡も見られないことに驚かざるをえない。

Ⅲ 海外発信

7. 海外展開への支援 ~日本映画がもっと海外で見られるように~

(1)日本映画の海外発信(日本映画の創造・振興プラン)

「上映支援」の尻すぼみの状況に対して、着実に成長してきたと考えられるのが、「日本映画の海外発信」である。実際、これまでの取り組みを見ると、海外発信の政策的優位性は顕著であり、上記の「製作支援」においても、その傾向は確認できる。日本映画の国際的評価を高めるための海外発信施策は、国外での市場拡大を図る狙いもあって、重点的かつ継続的に実施されている。

海外映画祭への出品支援、海外マーケット出展支援

その施策のひとつ「海外映画祭への出品支援」は、1997年度から財団法人日本映画海外普及協会(ユニジャパン・フィルム)が行っており、2003年度から「日本映画・映像振興プラン」の一環で、文化庁の委託事業となって継続的に実施されている。具体的には、外国語字幕製作、映画祭参加時の海外渡航の支援などであり、現在はユニジャパン・フィルムの後身の公益財団法人ユニジャパンがその担い手になっている。

これとは別に、ユニジャパンは「海外マーケット出展支援」として、ベルリン、香港、カンヌ、トロントなどの国際映画祭で「ジャパン・ブース」を出展し、日本映画の国際的なプロモートを実施している。さらに、ユニジャパンは、2021年度から、若手日本人映画監督を海外映画祭に派遣する事業を行っている。2021年度には4名、2022年度には3名がベルリン国際映画祭およびその見本市である「ヨーロッパ・フィルム・マーケット」に派遣された。これらは、いずれも文化庁委託事業である。

アジアにおける日本映画特集上映

2004年度から長年にわたって取り組まれてきた事業に、「アジアにおける日本映画特集上映」があるが、これは2007年度に「日本映画・映像振興プラン」の新規事業として予算計上され、2019年度まで継続的に実施されていた。[注4]この事業は、一般社団法人ジャパン・イメージ・カウンシル、VIPO、ユニジャパンなどが受託している。

日本映画の戦略的海外発信事業(2020年~)

以上の施策は、2020年度から「日本映画の戦略的海外発信事業」に位置づけ直され、その名目のもとに、「海外映画祭への出品支援」と「海外展開強化」に振り分けられた。前者は以前と変わりがないが、後者では、上記の海外マーケット出展支援や海外映画祭への若手監督派遣(ユニジャパン)、“ACA Cinema Project”(ACAは文化庁を指す)と称するアメリカを中心とした海外での日本映画特集上映やワークショップ開催(VIPO)などが実施されている。

2022年度予算は1億3,800万円である。2010年代半ばは1億円前後だったが、近年は再び増加傾向にある。 

(2)文化芸術交流事業の推進及び支援(国際交流基金)

JFFアジア・パシフィック・ゲートウェイ構想事業

海外における日本映画の上映機会の創出には独立行政法人国際交流基金が大きな役割を果たしてきた。国際交流基金は、同基金のフィルムライブラリー所蔵の作品などを活用して、世界各地で、日本映画特集上映を実施しており、また現地主催の日本映画特集に助成を行っている。2016年度からASEAN10ヶ国およびオーストラリアを対象に、「JFF(Japanese Film Festival)アジア・パシフィック・ゲートウェイ構想事業」を立ち上げ、各地で「日本映画祭(JFF)」を実施するとともに、日本映画に関する国内外の情報を複数言語で提供するウェブサイト「JFF+」を運営している。2020年度から日本を除く全世界を対象にしたオンライン配信事業も始めており、各国で期間限定のオンライン日本映画祭を実施している。

2022年度には新たな取り組みとして「JFF+INDEPENDENT CINEMA」と題し、「日本映画の多様性」を支えてきた全国各地のミニシアターの選出によるインディペンデント映画12作品の海外向け無料配信を始めている。

さらに、ユニジャパンが2006年から始めた、日英対応の日本映画データベース(JFDB)を、国際交流基金は2011年から共同で運営している。JFDBには各映画の海外窓口の連絡先、担当者が記載され、海外からのオファーに役立つものとなっている。

2022年度、外務省からの運営費交付金を含む「文化芸術交流事業費」の予算は78億8,100万円であるが、そのうち映画関連事業の予算がどのくらいであるかは判然としない。2020年度の実績によれば、「日本映画上映事業」の経費は4,497万円、「日本映画上映助成事業」の経費は498万円、「日本映画オンライン配信事業」の経費は6,597万円、「日本映画データベース」の経費は337万円、合計で1億1,929万円であった。ちなみに、コロナ禍前の2019年度は、「日本映画上映事業」の経費は1億7,299万円、「日本映画上映助成事業」の経費は939万円、「日本映画データベース」の経費は337万円、合計で1億8,575万円であった。

(3)コンテンツ海外展開促進事業(経済産業省)

経済産業省も、文化庁による映画振興施策とほぼ同時期から、本格的にコンテンツ振興の取り組みに着手し、東京国際映画祭のマーケット機能強化やプロデューサー育成の他、コンテンツ産業分野を中心に、海外でのショーケースおよび展示会での出展を支援する施策を始めている。こうした流れは概ね現在も引き継がれていると言えるだろう。

東京国際映画祭 TIFFCOM

コンテンツの海外展開を支援するという名目のもとで実施されているのが東京国際映画祭であり、TIFFCOMは同時期に開催されるビジネスマッチングイベントである。TIFFCOMではコンテンツ(映画、テレビ番組、アニメなど)の売買だけでなく、映画化・映像化権、共同製作、ロケ地誘致などに関する商談が行われる。いずれのイベントも、ユニジャパンが運営主体になっており、経費にはこの「コンテンツ海外展開促進事業」の予算が充当されている。

2022年度予算は、上記の国際共同製作を促進するための事業(日中共同製作のための認定事業、ユニジャパンが受託)、知的財産権侵害対策強化事業(一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構が受託)を含めて11億円である。当該事業の予算は2020年度以降増加傾向にある。

– 「コンテンツグローバル需要創出」に関わる事業~J-LODなど

また、経済産業省は毎年度、補正予算によって、「コンテンツグローバル需要創出」に関わる事業をVIPOに委託し、「J-LOD」(前身は「J-LOP」)と称して、海外展開におけるローカライズおよびプロモーションを支援してきた。このローカライズおよびプロモーション活動には、海外映画祭のマーケットへの出展、英語字幕や英語宣伝物の作成などが含まれる。コロナ禍以前の2019年度補正予算では、「コンテンツグローバル需要創出促進・基盤整備事業」として31億円が計上されている。2020年度以降のコロナ禍においては、当該事業は「コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業」に統合されており、緊急事態宣言に伴うイベントの中止のキャンセル費用の補填などとあわせて、2021年度補正予算で556億5,000万円が計上されている。

これらとは別に、300億円を超える赤字額が累積し、すでに統廃合の可能性も取りざたされている官民ファンド「海外需要開拓支援機構」(いわゆる、クールジャパン機構)への出資は毎年度続けられている(2022年度は90億円が計画されている)。

(4)国際映画祭支援(日本映画の創造・振興プラン)

経済産業省が「共催」として関わっている東京国際映画祭については、上記の事業目的に鑑み、ここで触れておく。文化庁は「支援」としてクレジットされているが、2019年度以降は「日本映画の創造・振興プラン」の枠組みにおいて、毎年度、ユニジャパンに7,000万円の補助金を支出している(それ以前の2011年から芸術文化振興基金の「国内映画祭等の支援」から離れ、「海外発信」を主眼に、文化庁が直接的に支援する形となっていた)。

2022年度予算では、「文化庁映画週間・国際映画祭支援」として9,100万円が計上されているが、東京国際映画祭と同時期に開催される「文化庁映画週間」については、顕彰事業を含むことから、下記Ⅵ.で触れる。なお、2023年度予算では、本事業を拡充し、東京国際映画祭を含む6つの国際映画祭を支援する計画になっている。

注4 正確には2009年度のみ、海外映画祭への出品等支援ととともに、「日本文化の海外への戦略的発信」の枠に位置づけられた。また、2019年度に実施予定だったベトナムでの日本映画特集上映は2020年度に開催された。

2023年3月発行「映画上映活動年鑑2022」掲載

「映画上映活動年鑑2022」(2023年3月発行)

一部のページはResearch & Reports にてPDFデータを公開しています。


関連記事

記事をシェア: