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映画館での上映―諸外国との比較[2022]
「映画上映活動年鑑2023」

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2024年6月5日

この記事は、2024年3月発行「映画上映活動年鑑2023」より抜粋です。
一部のページはResearch & Reports にてPDFデータを公開しています。

映画上映活動年鑑2023
A4変形/ 196ページ/2024年3月刊行 文化庁「令和5年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」
 
I 映画館での上映 … 今回はこちらを掲載 
概況|公開本数・公開作品|諸外国との比較|都道府県別概況|全国映画館リスト2023
Ⅱ 公共上映
Ⅲ 特集1|コロナ後のコミュニティシネマ
Ⅳ 特集2|フィルム上映の現状を考える―採録:日韓映写技師ミーティングin福岡
Ⅴ 都道府県別上映施設一覧
Ⅵ 上映に関わる用語


映画館での上映

諸外国との比較[2022]

2024年1月末現在、まだ、諸外国の2023年のデータはネット上に公開されていないため、以下では、2022年の日本と諸外国(アメリカ・カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、韓国、オーストラリア)のデータを比較している。2020-2022年はいずれの国もコロナの影響下にあった。

観客数

2020年以降、2023年5月8日に新型コロナウィルス感染症が「第5類感染症」に位置づけられるまで、日本の映画産業はコロナ禍で大きな打撃を受け続けてきた。他の国々も同様だったが、そのダメージは日本をはるかにしのぐものであり、回復にも時間がかかっている。2022年、日本の観客数は1億5200万5000人で、10年前(2013年)と同じ水準まで回復したが、他の国々では50-80%の水準にとどまっている。

とはいうものの、ニューヨークの映画館が2020年3月から2021年春までほぼ1年間休館し、フランスでは2020年3月から2021年5月半ばまで断続的に閉館・再開が繰り返されるというような壊滅的な状態からは脱け出し、2013年比でフランスでは78%、イギリスとオーストラリアが71%、ドイツは60%まで回復している。アメリカ・カナダと韓国では観客の回復に時間がかかっており、2013年比53%にとどまっている。

fig.17 諸外国との比較[観客数](2013-2022)

観客数を人口で割った国民1人当たりの年間鑑賞本数は、韓国が2.2本(←4.2)、アメリカ・カナダ1.9本(←3.8)、フランス2.3本(←3.0)、オーストラリア2.2本(←3.5)、イギリスは1.9本(←2.6)となっている。日本人の年間鑑賞本数は2020年0.8本、2021年0.9本から着実に回復して2022年は1.2本となったが、他国に比べると元々鑑賞本数が少なく、ドイツと最下位を争っている。

fig.18 諸外国との比較[年間鑑賞本数](2013-2022)

映画館数・スクリーン数

いずれの国も、シネマ・コンプレックスの増加を背景に2019年まではスクリーン数は増加を続けていたが、2020年は減少に転じ(フランスと日本のみ微増)、コロナ禍の影響が懸念されたが、2021年、アメリカ・カナダとイギリス以外の国ではスクリーン数は微増、2022年はイギリスは微増となるが、アメリカ・カナダとオーストラリア、ドイツではスクリーン数が減少している。とはいえ、いずれの国でも、2022年までは極端な減少はみられない。

すべての国において、様々な形で映画館を守るための公的な支援策がこうじられ、日本において、ミニシアター・エイド基金やSAVE the CINEMAといった、映画館を応援し、映画館や上映者に対する公的な支援を求める動きが生まれたように、諸外国においても、映画人や映画ファンが映画館にエールを送る活動が行われ、映画館自身も存続のための様々な試みを行ってきたことなどにより、コロナ禍による閉館は小規模なものにとどまっていると思われる。

fig.19 諸外国との比較[スクリーン数](2013-2022)

fig.20 諸外国との比較[映画館数](2018-2022)

2022年のスクリーン数は、アメリカ・カナダが4万2063スクリーンと他の国に比べて圧倒的に多く、次いでフランスが6298、ドイツ4911,イギリス4720スクリーンが続く。ほとんどの国が10年前2013年よりもスクリーン数が増えている。特に韓国では2184スクリーンから3322スクリーンと10年間で1.5倍に増えている。

人口をスクリーン数で割った「1スクリーン当たりの人口」は、その数値が低いほどスクリーンが多い、身近にスクリーンが存在しているとみることができる。この数値をみると、日本は34,585人に1スクリーンと、他の国に比べてスクリーンが極端に少ない。アメリカ・カナダは8849人に1スクリーン、フランスは10,420人に1スクリーンで、日本以外の7ヶ国はいずれも1スクリーン当たりの人口は1万人台におさまっており、日本のスクリーン数は、アメリカ・カナダの4分の1、フランスの3分の1、韓国やドイツの2分の1程度しかない状態である。

fig.21 諸外国との比較[1スクリーン当たりの人口](2022)

興行収入/入場料金

コロナ禍の2020年、2021年と興行収入1位となった中国は、2022年に失速した。他国が徐々に“withコロナ”に切り替えていった一方で中国では“ゼロコロナ対策”が継続されたために、映画館の閉館が続き、壊滅的な影響を受けた。しかし、2023年には緩やかに持ち直しつつある。日本は、興行収入では中国、アメリカ・カナダについで第3位の位置を保持し続けている。

注目すべきなのは、いずれの国においても平均入場料金が2020年以降、かなり上がっているという点である。物価の上昇が入場料金にも反映していると見ることができるが、コロナ禍で、それまで観客層の中心であった高齢者層の観客が減少し、シニア割引の割合が減っていることもその一因となっているかもしれない。日本の入場料金は平均1402円で2021年と比較すると少し下がっている。諸外国の入場料金は、USドルまたはユーロで発表された数値に2022年秋頃の為替レートで換算して円で表示している。この1年で円安が急速に進んでおり、現在では日本と欧米の映画館の入場料金はあまり変わらないものになっている。他国に比較して「高い」と言われ続けてきた日本の入場料金が他国より安いものとなる日が近づいているのかもしれない。

fig.22 諸外国との比較[1スクリーン当たりの観客数](2013-2022)

fig.23 諸外国との比較[入場料金・興行収入](2022)

1スクリーン当たりの観客数・興行収入

1年間の観客数をスクリーン数で割った1スクリーン当たりの観客数をみると、いずれの国もコロナ以前の10年前と比較するとかなり低くなっている。日本は、2020年には28,928人と前年2019年の54%まで下がったが2022年には41,829人にまで回復、2013年の46,763人にかなり近い数値となっている。アメリカ・カナダは17,001人で日本の半分以下である。

2022年の1スクリーン当たりの1年間の興行収入をみると、日本は約5854万円とトップの数値を示している。他の国に比較してスクリーン数が少なく、入場料金が高いことが1スクリーン当たりの観客数や興行収入の高さの背景にある。2022年、欧米の映画館の1スクリーン当たりの興収は、アメリカ・カナダが2529万円、フランスは2392万円、ドイツは2028万円と日本の半分にも満たない。

シネマ・コンプレックスの割合

フランス、韓国ともコロナ禍で収入が減少しているにも関わらず、映画館数やスクリーン数に大きな変化はみられなかった。日本は2021-2022年に微減したが、フランス、韓国は少しずつ増えている。

シネコンの割合が高いのは韓国で、全3322スクリーン中3120スクリーン、約94%をシネコンが占めている。日本のシネコンのシェアも88.8%と高い数値を示している。フランスは、シネコンの比率は44.6%にとどまっており、映画館数では、シネコン247館に対し、シネコン以外の映画館が1814館と、シネコンを大きく上回っている。(フランスはシネコンの定義を「8スクリーン以上」としており、他国が「5-7スクリーン以上」としていることと異なる)そのうち、約1300館はシネコンとは異なる多様な映画を上映する「アー・エ・エセイ映画館」(アートハウス、日本のミニシアターに近い)に認定されており、国や自治体から助成金を得ている。また、フランスの映画館数は2061館と日本の562館の3倍以上の映画館があり、人口1-2万人の中小の市町村の73%に映画館がある。身近な場所で多様な映画を見ることができる環境が保持されている。

fig.24 諸外国との比較[シネマコンプレックスの割合 スクリーン数](2018-2022)

fig.25 諸外国との比較[シネマコンプレックスの割合 映画館数](2021, 2022)

公開本数

2020年、フランス、ドイツ、オーストラリアが公開本数を前年の半分程度に減らしたが、2021年には各国ともコロナ前の60-70%まで回復、2022年にはコロナ前の2018年とほぼ変わらない作品を公開している。しかし、1本当たりの観客数は、10年前にはまだまだ及ばない低い数値に留まっている。特に、公開本数が1643本と非常に多い韓国では1本当たりの観客数が平均68,658人と厳しい数値を示している。

日本では、2019年、自国映画/外国映画の割合は、公開本数、興行収入とも5.4:4.6と、他国に比べて非常にバランスの取れた状態であった。ハリウッド映画への依存度が他国に比べて低かったため、コロナ禍でハリウッド映画の多くが公開延期となった影響も比較的低く抑えられたといえる。しかしコロナ後、興行収入のバランスは大きく崩れ、2020年は日本映画76.3%、外国映画23.7%となり、2022年には69.0%、31.0%とその差が広がったままとなっている。

fig.26 諸外国との比較[公開本数](2013-2022)

映画館に対する恒常的な支援制度

日本以外のいずれの国にも、映画産業と映画文化を統括し振興する組織(フランスのCNC、イギリスのBFI、ドイツのFFA、韓国のKOFICなど)があり、製作・配給・興行(上映)・教育・保存、放映や配信にいたるまで、映画に関わるあらゆることに関与している。上映活動についても、シネコンのような商業的な大規模映画館での上映から、多様な映画を上映するミニシアターやシネマテーク、自主上映まで、様々なレベル、種類の上映活動を支援する制度が確立している。

公的な支援、振興策には、単に金銭的な支援という以上の意味がある。公的な支援を受ける映画館には、公共的な文化施設として、地域コミュニティや文化団体との連携を重視したプログラム作りや若年層の観客開拓、映画教育プログラムなど人材育成に関わる多様な活動を行うこと、そのような活動を行うスタッフを育成することも求められる。そのことにより、地域における文化的な存在感、持続可能性も高くなる。コロナ禍のような緊急事態に際しても、諸外国において、映画館や上映者を守るための対策を行ったのはCNCやBFI、KOFICといった映画を統括する組織である。

ほとんど公的な支援を受けずに、130館をこえるミニシアターが、大都市のみならず中小都市にも存在し、運営されている日本の状況は、諸外国から見ると「miracle(奇跡)」なのである。しかし、奇跡は永遠に続くものではない。この20年間で映画館は約300館減っており、映画館のない市町村、映画館空白地域が広がり続けている。関係者の献身と犠牲によって成立してきた小規模な映画館の運営は限界に近づいていると言わざるを得ない。映画振興策の見直し、映画館支援、上映者の実態に対応した助成プログラムの実現が待望されている。

※ 各国のデータについては、以下を参照した。
“Focus2023-World film market trends”
第76回カンヌ国際映画祭フィルムマーケット配布資料   
フランス:フランス国立映画センター Centre National du Cinema et de l’Image Animee(CNC)”Bilan du CNC”
https://www.cnc.fr/professionnels/etudes-et-rapports/bilans
イギリス:英国映画協会 British Film Institute(BFI)”Statistical Yearbook”
https://www.bfi.org.uk/industry-data-insights/statistical-yearbook
ドイツ:ドイツ映画振興協会 Filmförderungsanstalt(FFA)”FFA Info”
http://www.ffa.de/studien-und-publikationen.html
オーストラリア:スクリーン・オーストラリア Screen Australia “Fact Finders”
https://www.screenaustralia.gov.au/fact-finders/
韓国:韓国映画振興委員会 영화진흥위원회(KOFIC)「韓国映画産業決算」
https://www.kofic.or.kr/kofic/business/rsch/findPolicyList.do 
『映画年鑑2023』「統計編 世界主要各国映画諸統計」(キネマ旬報社刊)


続きは「映画上映活動年鑑2023」に掲載!
映画上映を、公開作品海外との比較からも詳しく分析しています。
また、続く章では全国の公共上映一覧もご紹介。
2つの特集「コロナ後のコミュニティシネマ」「フィルム上映の現状を考える」もあわせてお読みください!

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