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『フランスにおける映画振興に対する助成システム等に関する
実態調査 報告書』のためのささやかなガイド

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2022年4月5日

とちぎあきら(フィルムアーキビスト)

フランスにおける映画振興に対する助成システム等に関する実態調査

昨年(2021年)末、独立行政法人日本芸術文化振興会のホームページに、『フランスにおける映画振興に対する助成システム等に関する実態調査 報告書』とその概要版がアップされた。この調査は、同会から特定非営利活動法人映像産業振興機構[VIPO]と公益財団法人川喜多記念映画文化財団によるコンソーシアムが受託し実施したもので、筆者はコンソーシアムのもとで、調査と報告書作成の作業を分担させていただいた。

調査報告書は、フランスにおける映画振興の中心的な担い手であるフランス国立映画映像センター(Centre national du cinéma et de l’image animée。以下、CNC)が実施しているさまざまな支援プログラムの内容を詳細に紹介することを軸に、そのシステムを基盤として支えている諸制度、モニタリングや監査・統制、統計調査などの周辺事項を説明するとともに、CNCおよび政府によるコロナ禍での復興施策について詳しい解説を加えたものである。報告書の「はじめに」や「おわりに」にも記しているように、当初は現地取材を通して、支援プログラムを実行している助成者側の視点から運用実態を明らかにしていくことを想定していたのだが、相次ぐロックダウンにより一度も渡航することが叶わず、またCNCの担当者も復興施策の立案などに忙殺され、ほとんど話を聞く機会が持てなかった。そのため、報告書の編集方針も大きな変更を余儀なくされ、現場の生の声を反映させる代わりに、CNCが発行している大量の文書を材料に、その内容を細部に至るまで明らかにすることにより、レファレンスとしての価値の高い報告書の作成をめざすことにした。結果として、人の血が通っていない内容になったかもしれないが、長年の積み重ねを経て構築されてきたフランスの助成システムの末端に至るまでの骨組みと、その動きを支えている筋肉とも言えるさまざまな制度との関係は、かなり詳らかにできたのではないかと思う。

このような性格を持つ報告書なので、この場で新たに付け加えるような情報は何もない。ここでできることは、これから報告書を読んでもらう方のために、各自関心のあるところだけをつまみ読みされる場合でも、助成制度や支援プログラムの具体的な内容の前提として知っておいていただければ、より理解しやすくなるのでは、と思うところを整理するに過ぎないが、それでも、報告書へのささやかなガイドの役目を果たすことになれば、筆者として嬉しいことはない。

CNCの支援プログラムを紹介

まず、報告書全体の前置きになるが、本報告書では「フランスにおける映画振興に対する助成システム等」を、主にCNCによる支援プログラムに限って紹介している。もちろん、フランスにおいて助成や支援の窓口となっている機関や団体はCNCだけではない。CNC公式ウェブサイトのページ「映画・テレビ・マルチメディア産業における専門組織と組合」には、55にも及ぶ団体のリストが掲出されているが、各セクターにおける支援組織としての機能を果たしているところも多い。一方、これらの組織や団体の多くはCNCからの資金提供を受けている(報告書資料集3「CNC年鑑2019年版 第6章第1節 公的資金」の「さまざまな映画助成」に掲載されている表には、CNCが資金提供を行った団体名が列挙されている)。このことから、フランスの映画振興制度を概観するうえで、CNCが提供している支援プログラムを軸に見ていくことは有効であると考えている。

劇場公開される長篇映画を対象とする支援プログラムを紹介

また、第4章第1節(以下、章節の明記はすべて本報告書の該当箇所を示している)で説明しているように、本報告書では支援プログラムの対象を、主に劇場公開を前提に製作された長篇映画に絞っている点も、断っておかなくてはならない。CNCの歴史を振り返れば、フランス国立映画センター(Centre national de la cinématographie)として1946年に創設されて以来、オーディオビジュアル全般の多様化に対応して、支援対象を長篇映画から、短篇映画、テレビ番組、ビデオ、テレビゲームなどマルチメディアへと拡大してきたことは、CNC自身による活動史を基にまとめた第2章第1節「CNCの歴史と概要」でも明らかである。ただし、助成システムの財源となってきたのは、当初より映画館入場料から徴収する特別税であり、この納税額に応じて次回作の製作への再投資を促すための自動支援も、審査会の意見に基づき助成を行う選択支援(自動支援、選択支援については後述)も、制度設計において対象としたのは長篇映画であり、その制度を応用する形で、支援対象と領域(企画開発や配給、公開など)を拡張してきたと言ってよい。その意味で、劇場用長篇映画への支援プログラムを通して、フランスの助成システムを捉えるという見方には妥当性があると考えていいだろう。

CNCによる助成システムの前提条件と思想

次に、助成システムや支援プログラムを支えている前提条件や、全体を貫く考え方や思想といったものに、目を向けてみたい。

1.CNCが2019年に、映画、テレビ、分野横断的領域、デジタル化に対して行った支援の総額は、6億9,640万ユーロ(1ユーロ=120円換算で、約835億6,800万円)である。ちなみに、文化庁の令和3年度当初予算が1,075億円、補正予算がARTS for the future!などコロナ禍における再興支援事業に対する556億円を含む905億円と比べてみると、映画などオーディオビジュアル分野だけに特化した支援として上記の金額が計上されているフランスの助成制度は、異次元のスケールであると言っていいだろう(ちなみに、2019年末時点でのCNCの職員数は479名、うちフルタイムは451名

この規模で支援を行うことができる一番の根拠は、CNCが持つ強大な権限である。一つは、CNC総裁が有する権限。CNCの法的地位は公設法人であるが、その総裁は、監督権を持つ文化省の大臣からではなく、共和国大統領デクレ(政令)によって任命を受ける。公設法人の長が大統領から直接任命される機関は、CNCのみである。総裁は、映画・映像に関する法令の検討に参画し、関連する規則を決定し、国際間の共同製作や協議に関与し、映画上映施設の営業や映画製作に対する税制優遇措置などの許認可権を持ち、映画作品の劇場公開後のビデオ販売などの時期や順序に関する法規(「メディアのタイムライン Chronologie des médias」と呼ばれる)の執行責任者になるとともに、CNCによる個々の助成金の配分に関する決定権を持っている。つまり、CNC総裁は、法律によって、映画・映像の芸術ならびに産業に関する広範な領域に対して、多大な権限が与えられていることになる(第1章第3節、特に「CNCの地位と任務」「CNC総裁の地位と特権」を参照)

もう一つは、国庫に歳入されない固有財源を持っている、という点である。CNCの財源は主に、映画館入場料に対する税(TSA。現在、入場料に対して10.72%)、テレビ放送の広告および配給に対する税(TST。現在、放送事業者は課税対象収入に対して5.15%、放送配給者は課税対象収入に対して0.50%から3.50%)、ビデオおよびビデオオンデマンドに対する税(TSV。現在、課税対象収入に対して5.15%)によって賄われており、国からは予算配分はまったくないという。しかも、TSAとTSTについては、フランスにおける税務当局である公共財政総局ではなく、CNCが直接申告書の受領と税金の納付を受けることになっている(第3章第2節「支援の財源」を参照)。そのため、CNCは納税者(映画上映施設事業者、放送事業者、放送配給業者)に対する統制権を持っており、申告義務に対する罰則規定や修正申告に伴う加算税などが決められている(第5章第2節、特に「特別税の徴収に関する統制」を参照)

2019年におけるCNCの総収入額は6億8,200万ユーロ(約818億4,000万円)である。ちなみに、2020年当初予算法における文化省予算は36億5,800万ユーロ(約4,389億6,000万円)。フランスは国による文化の保護や振興に対する予算措置が分厚く、そのため、映画への支援も潤沢であると説明されることが多い。いずれもその通りであるが、会計上その両者は独立したものである。

2.CNC設立当時の所管は産業商業省であり、その主たる目的は、第二次世界大戦で疲弊したフランスの映画産業を復興させることにあった。一般的に、自国の映画産業を保護するための施策として実施されてきたのは、輸入される外国映画の影響力を抑止するためのクオータ制導入と、自国映画の製作に対する公的資金助成の強化である。アメリカに対するフランスの戦争負債を帳消しにする代わりに、アメリカ産品の市場開放を約束したブルム=バーンズ協定(1946年5月28日締結)に対して、映画人や世論の反発が高まるなかで設置されたCNCには、当初よりハリウッドに対する防波堤の役割が求められてきた。

フランスでもまずはクオータ制が敷かれたが、1948年には早くも映画館入場料に対する特別税を導入し、作品の興行収入を製作者や興行者への助成に充当するという自動支援の仕組みが作られた。映画産業が自ら稼いだ利益に応じて、その活動の継続と発展が保証されるという制度を作り上げたのである。

ただし、この仕組みでは、過去の実績がなかったり、商業的なポテンシャルや評価の定まらない作品を抱えたりしているプロデューサーは、その恩恵に浴せない。そこで、1959年の文化省設置とともに所管換されたCNCにおいて、アンドレ・マルロー文化相が始めたのが、処女作など市場原理からは収支のバランスが見込めない作品に対して、専門家による審査によって助成金を給付する「前貸資金」制度である。このプログラムを嚆矢として、自動支援の枠組みからこぼれてしまう作品や企画を救済するための選択支援によるプログラムが整備されていった。選択支援の理念とは、映画における多様性の保証ということである。

つまり、CNCによる助成システムは、自動支援と選択支援という二頭立ての仕組みを構築することによって、産業振興[サステナビリティ]と文化振興[ダイバーシティ]を同時に実現させていくという理念から成り立っていると考えられる(第3章第5節「自動支援と選択支援」を参照)

3.映画館入場料に課した税金により映画製作を支援する、という構図から明らかなように、フランスの助成システムは「川下が川上を支える」という考えに貫かれている。そのため、1970年代以降映画館の動員数が落ち込み、入場税だけでは映画産業を支えられなくなってきたところで、これを補うために、初の民間放送局[Canal+]の設置許可を与えることと引き換えに、1986年から放送事業者や放送配給者に対する特別税の徴収が開始された。さらに同じ年、一定数以上の映画作品を放映している放送事業者に対しては、売上高から一定の割合で映画製作に投資を行うことが義務化された。現在では、一般チャンネルや映画専門チャンネルなど業態ごとに、フレンチ・オリジナル作品(主にフランス語ないしはフランスの地方言語が使用されている作品)を中心としたヨーロッパ作品(EU加盟国ないしは欧州協議会の指令に基づく第三国の作品)やインディペンデント作品の製作への直接投資、放送権の事前購入などの義務が、数値で設定されている。フランス映画に対する最大の出資者はテレビ局なのである(第1章第4節、特に「放送事業と映画」を参照)

ビデオ販売やレンタルに対する課税も1990年代前半から始まり、近年ではEUによるオーディオビジュアル分野に関する指令を受ける形で、国内外の配信プラットフォーマーに対する課税措置や投資義務への議論も活発に行われ、国内の業界団体とビデオオンデマンドサービス業者との間で合意が進みつつある。

.ただし、「川下が川上を支える」とは言っても、企画開発や製作への支援が充実しているだけでは、観客が多様な映画を享受できる環境は保証されない。長篇一作目や二作目の作品、短篇映画、低予算映画、映画遺産と呼ばれるクラシック作品、子ども向けの作品など、一般に興行が難しいとされる作品の配給や公開、ビデオ販売や配信に対しては、手厚い支えがなければ、活動を継続させることは困難であり、多様な映画体験を観客に保証していくのは難しいのである。そのため、CNCの助成システムでは、映画のバリューチェーン全般に対して、自動支援と選択支援の両輪によって、チェーンの各フェーズを支援していくための多くのプログラムが、長い年月をかけて、きめ細かく構築されてきたのである。そこには、諸外国との国際共同製作協定の推進や外国映画への製作支援、フランス映画の海外プロモーションに対する支援なども含まれている。また、支援プログラムの違いにかかわらず、新たな才能の発掘やイノベーションへの取り組みを重視し、助成金にボーナスを上積みして支援を厚くするという一貫した姿勢が伺われる点も、特筆してよいだろう。

以上のようなCNCによる支援プログラムと、これを支えている諸制度との関係を見取り図として描いたのが、下図である。

図:フランスの公的映画支援制度相互関係図

(報告書 図表3-1aより)

映画、テレビ、デジタルメディアにおける戦略的経営やイノベーション・マネジメントの分野で多くの著作を発表し、フランスにおけるアート系映画[アール・エ・エッセイ映画]推薦委員会のメンバーでもあるパリ第3大学教授ローラン・クレトンの言葉を、ここで引用しておこう。

映画に関するフランスの政策のもっとも偉大な価値のひとつは――製作、配給、公開という――産業としての全ての側面に向けて特化された支援と規則を持つシステムが存在しているという点であり、技術産業のことも、システム全体の最終地点にいる人たち、すなわち観客のことも、看過していないのである。

Creton, L. [2015]. The Political Economy of French Cinema: Attendance and Movie Theaters in Fox, A., Marie, M., Raphaelle, M., Hilary, R. [eds.], A Companion to Contemporary French Cinema, West Sussex: Wiley Blackwell。訳は報告書による

.助成システムを支える基盤としての制度についても、いくつか紹介しておきたい。まずは、映画テレビ登録制度。一般公開を目的に製作された映画作品およびテレビ番組は、題名などのクレジット情報のみならず、製作や公開に関する証書、契約書、裁判所命令、仲裁命令などの文書をすべて登録しなくてはならない。この制度は、権利保護の役割を果たすとともに、公開ライセンスの交付や製作への公的融資を得るための条件になっている。データベースは、限定的ではあるが、パブリックアクセスが可能であり、日本からも登録作品に関する情報を見ることができる(第3章第3節「映画テレビ登録制度」を参照)登録制度とは、助成システムを駆動させるための最初の装置と言える。

これまで何度も言及した自動支援というスキームは、プロデューサーが自ら製作した作品の興行収入や放映権販売、ビデオ売上高から算定された金額を、CNCが設置したプロデューサー名義の口座から引き出し、次回作の製作や企画開発に充当させることができるという仕組みだが、プロデューサーはそのために、投資認定と製作認定という2つのプロセスを通してCNC総裁による承認を得なくてはならない

次回作が正当な投資対象であることを承認するための投資認定は、自動支援口座からの引き出しだけでなく、前貸資金や税額控除、公的融資、放送局からの投資や放映権の事前販売、政府間協定による共同製作の認定申請などの条件となるが、契約書や見積書、資金調達計画書だけでなく、ヨーロッパ作品やフレンチ・オリジナル作品であることを証明するために、使用言語や俳優、スタッフに関する書類、労働協定の遵守を証明する書類などの提出が求められる。

一方、作品が諸規則を遵守して製作され、自動支援による助成金の算定が正当であることを確認するために行われる製作認定では、最終的な経費の内訳書や資本構成に関する書類とともに、社会保険申請のための申告書、作品が視聴覚技術高等委員会(映画テレビ分野の技術職による公益法人で、技術的な標準や仕様を策定する)による技術推奨に基づいて製作されたことを証明するためのサービスプロバイダーとの契約書、障がい者のための字幕や音声解説ファイルの作成に関する会計書類などの提出が必要とされている(第3章第4節「投資認定と製作認定」を参照)

膨大なデータを公開

ところで、登録制度や認定制度、そして特別税の申告などを通して、CNCには膨大な文書や書類がもたらされるわけだが、CNC内の調査統計予測局では、これらをデータ化し、統計資料として整理・分析を行っている。これが、映画支援プログラムの設計や修正に活かされることになる。統計数字は、CNC公式ウェブサイトのページStatistiques par secteur において、オープンデータとして公開されている。

このうち、映画に関するデータは、製作、興行、配給、映画に関する地理学[設備と入館]、映画観客、映画の輸出、という6つの領域に分けられ、それぞれの領域について複数の大項目があり、そこに中項目、小項目がぶらさがっているが、数字で埋め尽くされた膨大な数のエクセルシートを目の当たりにすることができる(第6章第2節「CNCの支援制度を支える統計調査」を参照。とりわけ、図表6-2a「CNCがカバーしている映画製作費に関する統計データ分類」では、映画製作費[大項目]のもとに紐づいた多くの中項目とシートごとの小項目を列挙しており、その内容は圧巻である)

これらの数字の典拠となっているのが、投資認定や製作認定の申請時に提出される書類、興行会社が提出する興収明細、配給会社が自動支援を受けるために提出する経費の明細などである。これに、CNCが民間機関と協力して行う映画館観客へのオンラインアンケートや、ユニフランスや映画輸出業者協会などと協力して測定しているフランス映画の輸出実績などが加わり、膨大な統計データを作り上げている。パブリックアクセスが可能なので、ポリシーメイキングを支えるだけでなく、外部の研究者やメディアにとっても重要な資料になっていると言えるだろう。

上映活動に対するCNCの助成

最後に、コミュニティシネマに関わる皆さんにとって、最も関心を持たれるかもしれない上映活動に対するCNCの助成について、概観しておきたい。この領域も、映画におけるバリューチェーンの他のフェーズと同じく、自動支援と選択支援という二頭立ての助成システムによって支えられている

自動支援は、映画上映施設の営業権を持つ者が、TSAの支払いに応じて、CNCによって開設された自動支援口座から還付金を引き出し、施設の新設・改修、機器の購入・設置などに利用できる仕組みである。これを補足するものとして、選択支援の枠組みにも、映画館新設およびリニューアルに対する助成というメニューがある。

フランスにおけるコミュニティシネマ支援と言うべきプログラムが、公開助成における選択支援の一つ、アール・エ・エッセイ[アート系]映画館助成である。1962年、全国50の映画館がアール・エ・エッセイ映画館に指定されたときから、長い歴史を持つ助成制度である。(2019年決算では、アール・エ・エッセイ映画館1221館に対し、1650万ユーロの支援が行われた。)

まず、CNCより委託を受けたアール・エ・エッセイ映画館協会[AFCAE]の委員会が、実験的な作品や映画の発展に貢献する作品、芸術的・歴史的価値のある名作、フランス国内で公開の機会が少ない外国映画などを基準に、推薦作品を決定する。これを受けて、映画館が推薦作品の上映、宣伝、推進を担うことへの報奨として、CNCが助成金を交付するという仕組みである。

映画館は人口などの立地条件によって分類され、アール・エ・エッセイ映画の上映での1回の入場に対し、助成金の上限が設定される。そこに、映画館のスクリーン数や関連イベントなどさまざまな条件を係数に加算、減算されるとともに、「探求と発見」「子ども向け映画」「映画遺産と名画」として推薦された映画を上映する場合は、ボーナスが上乗せされるという、かなり複雑だが、配慮の行き届いた制度設計がなされている。

また、パリなど映画館人口が多い地域において、あえて観客動員を見込めないプログラム編成を行っている映画館に対し、質的な評価を下したうえで助成金を交付する制度や、地方映画館開発事務局[ADRC]を窓口として、配給会社が作品提供を敬遠しがちな中小規模の都市の映画館やアール・エ・エッセイ映画館を対象に、追加の上映用コピーを作成するための費用を支給するプログラムもある。

さらに、CNCはカンヌ、アヌシー、ビアリッツなど、国内外の約40の映画祭に対して直接支援を行うとともに、文化省の地域圏文化行政局[DRAC]、地方自治体との三者協定により、映画館やシネクラブ、教育目的を持った活動に対する支援体制も構築されている。

以上のように、CNCによる公開助成では、地域や作品による公開の格差を縮め、観客の多様な映画へのアクセシビリティを高めていくための支援がきめ細かく整備されていることが、具体的なプログラムを通して理解できるだろう。

図:公開助成における支援プログラムの一覧

(報告書 図表4-6aより。[P208]とは報告書208頁から紹介されていることを示している)

図:映画公開への助成

(報告書 資料集3「CNC年鑑 2019年版 第6章第1節公的資金」より)

※報告書に掲載されている上図に誤りがあります。正確には以下の通りです。

アール・エ・エッセイ映画館助成の欄の「目的」と「2019年決算」

目的=上映作品の多様性を促進するために行う

2019年決算=アール・エ・エッセイ映画館1,221館に1,650万ユーロ(約19億8,000万円)

CNCが提供する支援プログラムの解説を軸に、フランスの映画振興制度をまとめた本報告書は、日本における映画振興への政策提言を行うために書かれたものではない。とはいえ、映画に対する公的支援の話になると、必ずといって引き合いに出されるのがCNCである。ただし、その話というのが、CNCの何について語っているのか、何を根拠に語っているのか、聞き手との間で共通理解しているのか不明瞭なまま、話題に上っただけで議論が終わってしまうことが多いのではないだろうか。こうした問題意識から、今後CNCを事例として映画振興制度の議論を行う場合、その出発点となるような内容の報告書を作成することが、本事業のめざすところだったわけである。

もちろん、フランスの助成システムは、オーディオビジュアル全般を巡る国内外の情勢や当事者間の交渉などによって、絶え間なく更新や修正が行われており、現今のコロナ禍に対する施策は、そのスピードに拍車をかけている。本報告書において、助成システムの概観や制度相互の関係を捉えるための枠組みは提示できたと思うが、今後とも情報のアップデートは欠かせない。日本における映画振興制度のあるべき姿を考えるうえで、諸外国の実態調査を継続的に行える体制を作ることも、大切な要件の一つとなるに違いない。

とちぎあきら

フィルムアーキビスト。

『月刊イメージフォーラム』編集長などの職を経て、2003年より15年間、東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)研究員として、映画フィルムの収集・保存・復元などに従事。2020年5月一般社団法人日本アーキビスト協会(JAMIA)設立、代表理事に就任。2020年より、コミュニティシネマセンター理事。

2019-2021年の「フランスにおける映画振興に対する助成システム等に関する実態調査」では、調査・報告書作成業務を担当。