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【特集:コロナ後のコミュニティシネマ】
再生する映画館 ~映画館コミュニティシネマはみんなのもの~(1)

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2024年4月25日

この記事は、2023年9月22日・23日に開催した「全国コミュニティシネマ会議2023 in 高崎」のプレゼンテーション+ディスカッション「再生する映画館~映画館コミュニティシネマ はみんなのもの~」採録です。
プレゼンテーションは「再生する映画館~映画館コミュニティシネマ はみんなのもの~⑵」をご覧ください。


2023年5月8日、新型コロナウィルス感染症が「第5類感染症」に位置付けられたことによって様々な制限が解除され、2020年から3年間続いたコロナ禍は、ひとまず終息した。全国の映画館が閉館となり、町から人が消えてしまったことはもう遠い過去のようにも感じられる。しかし、コロナ禍は、私たちの生活のあり方や考え方に少なからぬ変化を及ぼした。そして、映画館を取り巻く状況もまた変化している。2023年秋の時点では、入場者数はコロナ以前の水準には戻っていないという実感をもつ映画館が大半を占めていた。さらに、多くの映画館が、導入から10年余りを経たデジタルシネマ機の更新の時期を迎え、大規模な設備投資が必要となっている。映写機のみならず、施設の老朽化は深刻であり、物価や光熱費が上がる中で、地域の映画館の苦境は続いている。

そのような状況の中、火災を乗り越えて2023年12月に“奇跡の復活”再建を果たした「小倉昭和館」や、他館との差異化を試みるシネマコンプレックス「ミッドランドスクエア シネマ」など、映画館は新たな展開を模索している。

全国コミュニティシネマ会議2023採録

プレゼンテーション+ディスカッション

再生する映画館~映画館コミュニティシネマはみんなのもの~

全国コミュニティシネマ会議2023 in 高崎

登壇者


プレゼンテーション
樋口智巳[小倉昭和館株式会社代表取締役-館主]
酒井幸治[ミッドランドスクエア シネマ/中日本興業株式会社興行部部長]
ディスカッション
渡辺祐一[合同会社「東風」]
岩崎ゆう子[一般社団法人コミュニティシネマセンター]

司会:北條誠人[ユーロスペース支配人]

ディスカッション


2016年と2023年

北條誠人(司会)

2016年に高崎で全国コミュニティシネマ会議が開催されたときに「地域のミニシアターの20年」というテーマでディスカッションを行いました。当時は河瀨直美監督の『あん』(2015)や塚本晋也監督の『野火』(2015)がミニシアターで公開されてヒットしていて、登壇された「川越スカラ座」、「横浜シネマジャック&ベティ」、「シネマイーラ」(浜松)、「京都みなみ会館」、「桜坂劇場」(那覇)の方々も比較的ポジティブな発言をされていました。事前に塚本監督、森達也監督、瀬々敬久監督に、なぜミニシアターが必要なのか、大切なのかについて話していただいたメッセージ映像をつくりました。

2016年というのは、2011年の東日本大震災から5年を経て、あの大きな災害の影響を振り返るタイミングでもありました。登壇された映画館から2011-2015年の入場者数や興行収入などのデータを提供していただき、東日本大震災の影響について話し合いました。興行収入は2011年以降、ほぼ横ばいで、登壇者からは「震災の影響はほとんどなかった」という発言もありました。『あん』や『野火』、この年の夏に公開された『この世界の片隅に』といった作品のヒットによってミニシアターが支えられていたとも考えられます。しかし、映画館全体をみると、2011-13年にかけて閉館した映画館は180館に上っています。その中にはミニシアターも含まれます。この時期の映画館は、フィルムからデジタルへという大きな転換期を迎えていて、映画館を継続するにはデジタルシネマ機の導入という大規模な設備投資が求められました。これに対応できなかった多くの映画館が閉館しています。

2020年3月以降、コロナ禍が全国を覆い、東日本大震災に匹敵する危機的な状況に見舞われました。映画監督らが立ち上げたクラウドファンディング「ミニシアターエイド基金」には3万人を越える人たちから3億3000万円の支援金が集まり、映画館に対する公的な支援を求める「SAVE the CINEMA」には約9万筆の賛同の署名が寄せられました。また関西の劇場を中心とした「SAVE OUR LOCAL CINEMAS」も大きな支援を集めました。2020年以降に寄せられた支援や署名など、具体的な数字によって、多くの人が小規模な映画館を大切に思っていること、その必要性が可視化されました。

2016年の会議では、桜坂劇場の下地久美子さんの「映画(入場料収入)だけでやっていくのは大変。映画だけでやっていこうとするのは意地でしかないのではないか」という発言が印象強かったのを思い出します。今回のプレゼンテーションとディスカッションでは、2016年の会議から7年経って、また、コロナ禍の3年間を経て、何が問題になっているのかについて話し合いたいと思います。

まずは8月に実施したアンケートの結果から現在の状況を共有します。

「映画館の経営状況と今後についてのアンケート」の結果について〈レポート〉

資料:映画館の経営状況と今後についてのアンケート

アンケート実施期間:2023年8月30日~ 9月10日 アンケート送付館数:111館 アンケート回答館数:78館
調査主体:一般社団法人コミュニティシネマセンター/ action4cinema 日本版CNC設立を求める会
協力:ミニシアター・エイド基金運営事務局

岩崎ゆう子

今年の8月下旬から9月10日に、コミュニティシネマセンターと「action4cinema」が主体となり、ミニシアターエイド基金の全面的な協力を得てアンケートを実施し、78館からご回答いただきました。

「現代の経営状況についてどう思いますか」という問いに対しては、悪い(とても悪い、悪い、やや悪い)と感じている映画館が53館(約70%)に上っています。一方で普通、やや良いと答えている映画館も25館(約30%)ありました。「2019年の同時期と比べて経常利益の増減はどのくらいか」に対しては、10%以上少ない状態であると答えた映画館が15館(19.7%)で、10%程度下がっている映画館は36館(47.4%)でした。これらを合わせると約67.1%になり、上記の経営状態が悪いと解答した映画館の数と大体一致します。

「今後の観客数の見通し」については、より減少すると考えている映画館は30館(39%)、現状のまま推移すると答えた映画館は34館(44%)で、合わせると約80%となります。「今後1年間以内に閉館を検討する可能性」については、64館(82.1%)がないと答え、9館(11.5%)が、閉館の可能性があると答えています。多くの劇場が減少するという見通しを持ちつつも、自館の閉館は考えないと答えていることがわかります。閉館の可能性があると回答した映画館の中でクラウドファンディングなどの支援のための取り組みを行っている映画館は7館(26.9%)で、実施を検討しているところが11館(42.9%)、合わせると約70%が何らかの支援を必要としている。非常に厳しい状態であることがわかります。ただ、映連が発表した2022年の入場料収入は2019年比で19%減となっており、2022年においては、ミニシアターだけでなく映画界全体がまだ厳しい状況にあったといえます。

映画館の閉館が続くのではないか

昨年のコミュニティシネマ会議で話された映画振興策に関する議論を踏まえながら、アンケート結果と合わせていくつか気になった点をお話しします。

一番懸念されるのは、映画館の閉館が続くのではないかということです。先ほど北條さんも話されたように2011年に789館あった映画館が2013年には609館となっており、2011-2013年に、全体の約25%にあたる180館の映画館が閉館しています。東日本大震災という未曾有の大災害に、映画館のデジタル化が重なり、大規模な設備投資を乗り切ることができないと判断した多くの映画館が閉館したものと思われます。2022年の映画館数は590館なので、2013年以降の10年間では、映画館は20館しか減っていません。現在、3年間のコロナ禍に加えて、デジタルシネマ機は更新の時期を迎えています。180もの映画館が減ることはないと思いますが、非常に気にかかるところではあります。

そもそも、日本の映画館は諸外国に比べて少ない。2021年の数字になりますが、1スクリーン当たりの人口で比較すると、アメリカの場合は9121人に対して1スクリーンと最も多く、フランスは約1万人に1スクリーン、韓国でも1万5000人に1スクリーンがあるのですが、日本の場合は3万4000人に対して1スクリーンと非常に少ない。これがさらに減ることが懸念されます。

昨年の会議で、ミニシアターを含む小規模映画館やコミュニティシネマが日本の映画文化芸術の多様性を担保する拠点となっていることを確認しました。2021年の公開作品のうち約40%がミニシアターだけで上映されており、ミニシアターは、多様な映画を上映する場所、若い作り手の作品発表の場でもあり、鑑賞教育や作り手を育成する、広い意味で「教育の場」であり、公共的な役割を果たしていることを確認しました。そういう映画館をこれ以上減らしてはいけないと強く思いますが、現在のところ、映画館を守るための施策が講じられるという話は出ていません。

国の映画館に対する支援はほとんどゼロ

現在の文化庁の映画振興関連予算をみると、製作支援(海外発信含)に約45%が充てられています。上映支援に充てられているのはわずか“4%”、約7500万円です。しかもそのほとんどが映画祭への支援で、映画館への支援、日常的な上映活動への支援はほとんど無に等しい状況です。この著しくバランスを欠いた状態が20年以上続いており、映画振興策のあり方そのものを考える時期に来ていると思います。

コロナ禍の中、ミニシアターエイド基金やSAVE the CINEMAといった活動が行われ、作り手も観客も、もちろん上映者自身も映画館が継続することを望んでいることが明らかになりました。つい先日大阪の「シネ・ヌーヴォ」が行った募金活動「シネ・ヌーヴォFROM NOW ONプロジェクト2023」でも1ヶ月半で目標金額の倍近い1500万円の支援を得ています。

「入場料収入以外の収入」を確保する必要性

この国においては、映画館の観客が減って赤字が続けば閉館するしかないと考えられてきたわけですが、コロナ禍がその常識を覆すことになりました。観客を迎えることができない中でも映画館を閉館させてはいけないと考える人たちがたくさんいた、映画館は無くしてはいけない大切な場所だと考えられている。このことを明確に認識する必要があります。

実は、日本は、1スクリーン当たりの収入は諸外国に比べて突出して高い。アメリカ、ドイツ、フランスの1スクリーン当たりの興行収入は日本の半分以下です。それでも映画館が成り立っています。なぜかというと、「入場料収入以外の収入」があるからです。貸館収入やカフェの収入、事業の受託収入に加えて、国や地方自治体からの支援金など、入場料以外の収入を得て運営されているから成り立っているのです。日本でも入場料収入以外の収入の確保を真剣に考え、取り組みを進めていかなければいけないと感じます。

東京のミニシアターの興行力

北條

私は東京で映画館を経営していることもあり、東京のミニシアターがどのくらいの興行力があるものか興味があって、2022年の東京の16の映画館(ミニシアター)の動員数と興行収入を調べてみました。映連が発表した数字(観客数:1億5200万人 入場料収入: 2131億1100万円)に対して、東京のミニシアターは約165万人、22億9321万円で、日本の興行収入全体の1%くらいでしかありません。他都市のミニシアターの数字を合わせても、ミニシアターの割合は、興行収入全体の3%程度だろうと考えられます。これをどう考えればよいのでしょうか。

2019年と2022年を比較してみると、劇場A-68%、劇場B-97%、劇場C-83%、劇場D-68%、劇場E-74%など、都内のミニシアターはコロナ禍以前の状態には戻っていないことがわかります。比較的興行収入が小さい劇場の回復は早く、逆に大きいところの回復は遅い傾向があります。

北條

ここからは、ディスカッションに移ります。まず、配給会社東風の渡辺祐一さんから去年の全国コミュニティシネマ会議を振り返っていただきます。

去年の全国コミュニティシネマ会議で話し合われたこと

渡辺祐一

きょうは、昨年の盛岡での全国コミュニティシネマ会議のプレゼンテーション+ディスカッション「上映活動支援制度を実現するために」での議論をさらに深めたいと思っています。昨年は冒頭で、司会のとちぎあきらさんが、「ミニシアターが日本における映画の文化芸術の多様性を担保する拠点になっていることは数字上も明らかです。2021年公開作品の81%がミニシアターで上映されており、40%はミニシアターでしか上映されていません。…現在に至るまでミニシアターと上映活動に対する支援が制度上に明らかにされていないということは「不作為」と考えていいのではないかと思います。…ミニシアターへの支援の努力がされてこなかったということは、映画という文化芸術に対して「国民がアクセスする権利の平等」を著しく阻害していると考えるべきではないでしょうか」と明確に述べられました。

昨年のディスカッション「全国コミュニティシネマ会議2022 in 盛岡」の様子

さらに、「「ARTS for the future! 2 コロナ禍からの文化芸術活動の再興支援事業(AFF2)」の募集要項には「映画館として、主体的に特色ある映画作品群を積極的に選定し、広報・上映公開する 活動を対象とします」と書かれているが、そもそも「主体的に特色ある映画作品群を積極的に選定し、広報・上映公開する」ことはミニシアターにとっては日常的な活動であり、すべての活動が対象となるのではないか」とおっしゃっています。大変丁寧で穏やかな口調でしたが、とちぎさんのお気持ちを僕なりに意訳すると、「もういい加減にしてくれ」ということだったのではないかなと思います。

続いて、「action4cinema 日本版CNC設立を求める会」のメンバーである岨手由貴子監督から、日本版CNCの構想を説明していただきました。構想の中には製作支援、流通支援、教育支援、労働環境保全の4つの支援の柱があり、流通支援には映画館や上映者、配給会社への支援が含まれ、教育支援には制作する人材の育成だけでなく、観客の育成も含まれていると説明されました。それから岨手監督は、現在は金沢に住んでいるということもあり、地方出身者や若い作り手にとって各地のミニシアターがいかに大切な存在であるかを、ご自身の『あのこは貴族』の公開の例を踏まえて話してくださいました。

それに続いて、僕からは「現代アートハウス入門」の報告と実績の解説を行いました。作品ごとに、参加した各映画館の動員と入場収入を公開し、同一の映画プログラムに対して地域によっていかに数字にばらつきがあるかを示しました。そのうえで、だからこそ公的な支援なくしては地域における多様な映画へのアクセシビリティとその公平性が担保されえないことをお話ししました。アートハウスとしてのミニシアターは、多様な映画体験を提供することで文化的ビオトープの役割を果たしており、この企画で講師を務めてくれた現代映画の作家や研究者たち、この企画を現場で支えてくれた映画館や配給会社などの若いスタッフの存在が、それを体現していること、ミニシアターは、ある側面においては文化的なコモン(共有地)であり、宇沢弘文さんが提唱した「社会的共通資本」を模していえば、「文化的共通資本」であると申し上げました。

ミニシアターだけではない「コミュニティシネマ」、「ミニシアターvsシネコン」ではない

昨年の議論の大きな流れとして、「対症療法的なものではなく原因療法となるようなシステムの構築が必要であること」、「上映活動に対する公的支援の最終的な受益者は観客であり、未来の社会であると考えるべきである」ということを確認しました。一方で、昨年は、僕自身がミニシアターのアートハウスやシネマテークとしての機能に特化して話を進めすぎたのではないか、またミニシアターという言葉を都合よく使いすぎているのではないかと反省するところがありました。きょうの二つのプレゼンテーションをお聞きして、むしろ「コミュニティシネマ」という概念が有効であることを改めて感じています。

– フォーラム福島に集う「カラフルでユニークな人たち」

2011年の東日本大震災のあと、郡山出身の映画研究者の三浦哲哉さんから「地元福島でなにかできないか」と相談されて、「Image.Fukushima(イメージ福島)」というプロジェクトを立ち上げました。原子力災害を考えるヒントになりそうな作品を上映して、哲学者の国分功一郎さんや社会学者の開沼博さん、作家や詩人、様々なシネアストを招いてトークやレクチャーを行いました。2011年の夏から2015年の夏までに13回のイベントを行い、福島では「フォーラム福島」、金沢では「シネモンド」や「金沢21世紀美術館」、東京では「ユーロスペース」など、各地のコミュニティシネマに受け皿になっていただきました。第1回目を2011年8月にフォーラム福島で開催した際には支配人の阿部泰宏さんが呼びかけて、地元の人たちに実行委員としてプロジェクトに参加してもらいました。集まったのは、高校や大学の教員、カフェ経営者、農業人、メディア関係者など、職業も年齢もバラバラな人たちです。みなさんに共通していたのは、フォーラム福島の常連だということです。さらに中学生、高校生のときにフォーラム福島で映画を見ていたという東京在住組も加わって、阿部さんへの近況報告が始まったりして、まるで同窓会のようでした。当時も被曝のリスクに関して様々な考え方があり、福島で人が集まるイベントを開催すること自体に賛否がありました。実行委員会同士がぶつかり合うこともありました。けれど、いざというときに、あれだけカラフルでユニークな人たちが集まるフォーラム福島は大変魅力的な映画館だなと感じました。イベントが始まると、フォーラム福島の敷地の一角で、被曝のリスクが少ない新鮮な野菜を広げて、映画を見に来た人たちに配り始めた人がいました。これには驚かされました。フォーラム福島という映画館が、まるで公園のような、(樋口さんがおっしゃった)パブリックスペースになる瞬間に立ち会った気がします。

「フォーラム」は東北のシネマコンプレックスチェーンであり、ミニシアターではありません。しかし、ビッグバジェットの作品とともに、岩波ホールやユーロスペース、イメージフォーラム、ポレポレ東中野などでかかる作品の多くを上映してきました。フォーラム福島の上映プログラムの多様性や独自性と、阿部さんの呼びかけで集まった人たちの多様さには強い相関関係があるに違いありません。震災後に東北に移り住んで制作を続けていた小森はるかさんとお会いすると、仙台の街にとって「フォーラム仙台」という映画館がどれだけありがたい存在であるかをよく話してくれます。

おそらく映画をめぐる今日的な課題には、「ミニシアターvsシネコン」、「フィジカル上映vs配信」、「映画vsテレビ」といったフレームでは対応しきれないものがあります。また、ミニシアターという言葉を安易に、情緒的に使うことで、覆い隠されてしまうことがある。わかりやすい対立構造は僕たちのように比較的小さな資本で映画に携わっている者自身の意識の中にこそ根深くあるように思います。いざというときにそれが心の支えになることも確かです。しかし、それだけでは対応できない問題に直面しているのではないでしょうか。

新しい上映支援制度のポイント

北條

これまで、文化庁などから「特別な企画や活動(イベント)に対する支援はできるけれども、生業に対する支援はできない」ということをしばしば言われてきました。それに対して、コミュニティシネマセンターからは、実績を評価する「ポイント制による上映支援制度」を提案してきました。全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)の会長で、佐々木興業(グランドシネマサンシャインほか)の会長でもある佐々木伸一さんとお会いする機会があり、上映支援についてのお話も出て、ポイント制による上映支援についても簡単にお伝えしたことがあります。佐々木さんから「それはミニシアターに対する支援なのですか」と聞かれ、私は「ミニシアターだけではありません。全国の映画館が支援を受けられればいい」と答えました。ミニシアターに限定する制度ではなく、シネコン、ミニシアター、小さな上映会の人たちなど、上映に携わる人たちがそれぞれに望ましい形で支援を受けられる環境をつくりたいのだとお話ししました。

新しい上映支援制度のポイント

●実績を評価し、上映の「場」や「活動」を支援する
⇒⇒ 前年度の上映レポートに基づいて評価する。
以下のような項目を評価対象とすることが考えられる。
(1) 上映作品の多様性
EX)前年1年間の上映作品リスト(作品名、上映回数、観客数、入場料収入)の提出~ポイントの算出
(2) 文化庁や芸術文化振興基金による製作支援作品の上映本数・回数
(3) 独自の試みや活動
①特集上映の実施
②若手監督の作品の上映 
③トークやレクチャーなど上映関連イベントの実施
④教育的な上映・イベントの実施  
⑤地域との連携企画の実施、など

● シネコンでも、ミニシアターでも、自主上映団体でも、公共ホールで も、申請することができる
● 上映支援制度の運営は、上映活動に精通した団体・機関が行うこと が望ましい

EX)フランスにおけるアートハウス支援の運営は「アール・エ・エッセイ映 画館協会[AFCAE]」が担っている。

北條

会場に大阪「シネ・ヌーヴォ」の山崎紀子さんがいらっしゃいます。この件についてご意見をいただけますか。

映画館に対する公的支援は必要だ

山崎紀子

シネ・ヌ―ヴォでは、7月15日から8月31日まで「シネ・ヌーヴォFROM NOW ONプロジェクト2023」という支援を求める活動を行いました。目標額は800万円でしたが、それを大きく上回る15,223,000円の支援をいただくことができました。

コロナ禍から続く収入減、映写機(デジタルシネマ機)の買い換え問題、猶予されていた税金の支払い、借り入れたお金の返済等々が重なり、このままでは数ヶ月で存続できなくなる、と深刻な危機感に襲われ、支援をお願いするしかないと「FROM NOW ONプロジェクト2023」を行いました。おかげさまで成功して一安心しているところですが、このようなファンディングをすべての映画館や上映者ができるとは思えません。できないところもたくさんあると思います。それに、クラウドファンディングを毎年やることもできません。映画館に対する公的支援は絶対に必要だと感じています。

今回、支援してくれた人の中にはシネ・ヌーヴォに一度も来たことがない人もいました。それでも、シネ・ヌーヴォには存続してほしいというメッセージをたくさんいただきました。町には、このような小規模な映画館が必要だという認識は多くの人が共有してくださっていると思います。ですから、私たち映画館自身も、もう少し声を上げて、具体的にこういう支援が必要なんだということを伝える活動を進めたいと思っています。皆さんと相談しながら協力し合っていきたいなと思っていますので、よろしくお願いします。

資料:コロナ後の地域の映画館が置かれている状況
(シネ・ヌーヴォFROM NOW ON プロジェクト2023ウェブサイトより)

●2020年 コロナ禍で2カ月の休館
 コロナ禍の中、官民の様々な支援・融資を受けた
 ・「Save our local cinemasプロジェクト」 ・「ミニシアター・エイド基金」 
 ・政府融資機関からの緊急借り入れ ・「持続化給付金」「雇用調整助成金」等々
 ➡休館の際の各種支払い(経費・人件費など)➡館内の感染対策費用➡館内リニューアル作業➡インターネット発券の導入 等に充当
●2021~2022年 「ARTS for the future!」(コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)活用
➡その他の支援金などを毎年の数百万円もの赤字の補てんに
●2023年 補助金が一切なくなる 
 ➡観客減は継続。コロナ前の水準には戻っていない。(10~20%減)
 ▼「支払いを猶予」された税金(消費税他)や年金など公的資金の取り立てが、猶予期限が切れたために非常に厳しくなる。
  ➡税金などの公的支払額は年間500万円以上。
  ➡2020年の「支払い猶予」の結果、2021年には通常の倍額、1000万円以上の納付を通告される。
  ➡収入は減っている中での支払いは厳しく、督促される日々が続く
 ▼2022年、耐用年数が切れるデジタル映写機の買い替えが急務となる
  補助金が入ること、さらに公的融資を活用するなどして自力で行うことを計画
  ➡工事直前になって経理状態が良くないとの理由で、予定の半額しか融資が下りず。
  ➡工事は強行したものの資金繰りが悪化、さらに負債が増える。
 ▼借り入れもできず、負債を支払わないと存続が危ぶまれる事態に。
 ▼赤字基調とはいえ、採算は回復してきている。
  ➡公的支払い、工事関係負債の支払いさえ完了すれば、映画館を維持することはできる
   ⇒2023年7月15日 「シネ・ヌーヴォ FROM NOW ON プロジェクト」スタート!
  ➡支援Tシャツ、支援トートバッグなどの購入と寄付を呼びかけ
   https://cinenouveau.thebase.in/p/00005 募集金額目標:800万円
 ⇒ 1 ヶ月半で、15,223,000円(1161人)の支援を獲得!

北條

また、きょうは「action4cinema(a4c)」から諏訪敦彦監督が参加されています。

諏訪敦彦

action4cinemaでは、つい先日、文化庁と経産省に行って担当者と意見交換をしてきました。今日のディスカッションを聞いて、改めて公的な支援の必要性を痛感しています。やはり課題となるのは、「日常的な映画館業務に対する支援」を国から引っ張り出してくることが難しいというところです。コロナ禍のSAVE the CINEMAの時期は、わかりやすく説明するために「ミニシアター」という言葉を使いましたが、改めて「コミュニティシネマ」という側面を訴えながら、そこに対してどういう支援が必要なのか、具体的に模索して国に働きかけることが必要です。また、国に支援を求めるだけではなく、様々な可能性を考えなければいけないのかなと思います。日本映画製作者連盟(映連)との2年間の話し合いは具体的な実りにはたどり着いてはいませんが、映画業界の自助、あるいは企業からの支援などを含めて、私たちもいろいろな可能性を探っているところです。また報告できる機会がありましたら皆さんにご報告したいですし、ご協力していだくこともあるかと思います。よろしくお願いいたします。

文化資源としての映画館

北條

ミニシアターに対する支援に限定せず、映画館や上映に対する支援の望ましいあり方を考え、求めていく必要があります。これからスピードをもってどのように具現化していくかを考えなければならないと思います。きょう、二つのプレゼンテーションを聞いて、映画館がまちづくりの中心になりつつあることがよくわかりました。コロナ禍で人間関係が希薄になっていたところで、もう一度集まりたい、会話をしたい、そういう場が求められているときに映画館が非常に有効であることもわかりました。まちづくりに関わる人たちとも一緒に活動することが有効であると思います。

今年、コミュニティシネマセンターの新しい代表理事に就任された志尾睦子さんは、「シネマテークたかさき」や「高崎電気館」を運営し、永年にわたり「高崎映画祭」を開催して、積極的に行政に働きかけをして成果をつくってこられました。今年、「名古屋シネマテーク」が閉館することになり、名古屋シネマテークにある膨大な映画に関する蔵書をどうするかということが問題になりました。私も相談を受けて、偶然、志尾さんにお会いしたのでお話ししたところ、高崎市にかけあってくださり、高崎で引き受けていただくことになりました。小倉昭和館に対して「文化資源」という言葉を使いましたが、名古屋シネマテークが42年間蓄積してきた蔵書もひとつの文化資源だと思います。それが名古屋から高崎に移って残っていくことは素晴らしいことだと思います。ひとつの映画館として生き残っていくというよりも、みんなで生きていくという意識を持った方が成果はあると強く感じました。最後に、皆さん、一言ずつお願いします。

樋口智巳

私自身は小倉昭和館を文化施設であると言ったことはありません。まわりの方が当館のことを文化だと言っていただけることはとてもありがたいことですが、私は、文化施設というよりも、お客様が喜ぶことをやっていきたいと思います。例えば、近隣の美術館が展覧会をやるときに、それを2倍、3倍に楽しんでもらえるように関係のある映画を上映したことがありました。すると、美術館や文学館のほうから「これをやるから何か一緒にやってほしい」と言われるようになりました。私は、当館で上映するすべての映画を見ています。そして、自ら選んだ映画を大切におあずかりして皆様にお届けするという気持ちで上映しています。その上で、これからまた違うことをやっていこうと考えているので、寝ている暇はないなと思います。12月に再開となる小倉昭和館ですが、もし手伝ってみようかなと思う方がいらっしゃいましたらどうぞお力をお貸しください。

酒井幸治

ミッドランドスクエア シネマはシネコンですが大手のシネコンチェーンとは少し違うところがあります。独立系のシネコンだからこそできることも少なくない。様々なプログラムに挑戦することができる、そこが生きる道なのではないかと思っています。私たちがコミュニティシネマセンターの会員になりたいと思ったきっかけがまさにそこで、我々よりもミニシアターの皆さん、コミュニティシネマの皆さんの方がいろいろな多様なプログラムをやられているのではないか、その中に我々ができることがあるのではないかと考えました。横のつながりや広がりを大切にして、お互いに協力しながらやっていくことが必要なのではないかと思います。今後ともぜひよろしくお願いいたします。

渡辺

コロナ禍を経験したことで、映画が製作者、配給、上映者、そして観客がかたちづくるエコシステムによって成立しているのだと実感されたはずです。それぞれの場所でできることをやらなければと思います。来年は分科会などで、配給会社で働いている若い人たちと一緒に何かできたらいいなと考えています。

北條

これにて「プレゼンテーション+ディスカッションⅡ 再生する映画館~コミュニティシネマはみんなのもの~」は終了します。ありがとうございました。

全国コミュニティシネマ会議2023 in 高崎


この記事は「映画上映活動年鑑2023」(5月上旬より一般発売)の抜粋です。


2023年9月22日 全国コミュニティシネマ会議2023 in 高崎


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