2023年 映画館での上映―概況
「映画上映活動年鑑2023」
この記事は、2024年3月発行「映画上映活動年鑑2023」より抜粋です。
一部のページはResearch & Reports にてPDFデータを公開しています。
映画上映活動年鑑2023
A4変形/ 196ページ/2024年3月刊行 文化庁「令和5年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」
I 映画館での上映
➡概況|公開本数・公開作品|諸外国との比較|都道府県別概況|全国映画館リスト2023
Ⅱ 公共上映
全国映画祭リスト2023
公共の映画専門施設(シネマテーク)及び上映事業を行う美術館
映画館以外で行われる上映活動
Ⅲ 特集1|コロナ後のコミュニティシネマ
プレゼンテーション+ディスカッション:
再生する映画館~映画館はみんなのもの~
ディスカッション|プレゼンテーション「小倉昭和館の再建」
プレゼンテーション「ミッドランドスクエア シネマの試み」
資料「映画館の経営状況と今後についてのアンケート」
Ⅳ 特集2|フィルム上映の現状を考える―採録:日韓映写技師ミーティングin福岡
フィルムで見る映画について
日本におけるフィルム上映の現状|韓国におけるフィルム上映の現状
ディスカッション「映写技師という仕事」
Ⅴ 都道府県別上映施設一覧
Ⅵ 上映に関わる用語
映画館での上映
概況
2024年1月末、日本映画製作者連盟(映連)は、2023年の「映画産業統計」発表の会見で、国内の興行は「ほぼ新型コロナウイルス禍前の水準に戻った」としている。
この言葉の通り、2023年の観客数は1億5553万5000人となり、コロナ前の2018年の92%まで回復した。コロナ禍の中、2020年に観客数が1億613万7000人と前年比(2019比)54.5%まで落ち込み、2021年も回復はにぶく、2019年比60%程度にとどまっていたが、2022年に78%まで、2023年には2019年比80%まで回復している。
特に、日本映画は興行収入が1481億8100万円と、2000年以降2番目に高い数値となったが、外国映画は733億100万円で、まだコロナ前(2018年)の73%程度にとどまっている。日本映画と外国映画の興収のシェアも66.9:33.1と圧倒的に日本映画が強い状況が続いている。
2023年もアニメーション作品が興行収入の上位を占めた。第1位『THE FIRST SLAM DUNK』(158.7億円)、2位『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(140.2億円)、3位『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』(138.8億円)、4位『君たちはどう生きるか』(88.4億円)となっており、上位3位までをアニメーションが独占するのは史上初のことだという。
他国と比較すると日本の興行状況はかなり順調に回復している。一方で、この回復基調に乗り切れていない映画館も少なくない。あるいは、回復基調にあるとはいえ、十分に回復できないまま経営を継続している小規模映画館もかなりの数にのぼることを指摘しておきたい。慎重に推移を見守る必要がある。
※【特集:コロナ後のコミュニティシネマ】再生する映画館 参照
映画館数・スクリーン数
– 2023年映画館は2館10スクリーンの増 コロナの影響は
2023年のスクリーン数は3682スクリーンで、前年から10スクリーン増加、映画館数は592館で2館増加している。2014年から2023年の10年間では、館数は4館減少したが、スクリーン数は274スクリーン増加している。シネマコンプレックス(シネコン)が30館327スクリーン増加し、シネコン以外の映画館は34館53スクリーン減少している。
シネコンは3257スクリーンで、全スクリーンの88.8%を占めている。館数でも、2011年以降はシネコンが「シネコン以外」の館数を上回り、2023年はシネコン360館、シネコン以外232館で、シネコンが60.8%となっている。
コロナによる休館や観客の減少により閉館する映画館が増えるのではないかと懸念されたが、2020-2023年の3年間で閉館した映画館数はシネコンが12館、シネコン以外が22館で、コロナの影響で極端に閉館数が増えているという状況にはない。逆に、2020-2023年には16のシネマコンプレックスが開館、シネコン以外でも14館が開館(再開は含まない)しており、これまでのところはコロナの影響は映画館の急激な減少という形では現れていない。ただ、後述するように、2021年まではシネマコンプレックスは毎年5-10館開館していたが、2022-2023年は、2-4館の新設にとどまっており、これがコロナの影響によるものなのかどうかは気になるところである。
観客数
2023年の観客数は、1億5553万5000人で前年比102.3%となった。前述の通り、日本映画の興収は1481億8100万円と、好調だった2019年を2年連続で上回り、2000年代に入って2番目の高い記録となっている。他方、外国映画は興行収入733億100万円で未だ回復途上にある。
入場料金の平均は2020年以降、上昇を続け、2023年は1424円となった。(2019年は1340円)他の物価や光熱費の上昇に合わせる形で入場料金の値上げに踏み切る映画館が増えている。また、コロナ禍で、それまで観客層の中心であった高齢者層の観客が減少し、シニア割引の割合が減っていることも入場料金の平均が上がる一因となっているかもしれない。
種類別にみる映画館数・スクリーン数の変化
– シネマコンプレックス(シネコン)
シネコンは360館3257スクリーンで、全スクリーン数(3682)の88.8%を占めている。10年間では、30館327スクリーン増加している。2000年代に入ってから2008年までは、毎年20-30館のペースでシネコンがつくられてきたが、2009年以降はそのスピードは緩やかになり、2014年以降、2021年までは、年間5-10館が開館している。コロナ禍に入っても、2020年、2021年にはそれぞれ6つのシネコンが開館したが、2022年は「ユナイテッド・シネマ秩父」(埼玉)と「TOHOシネマズ ららぽーと福岡」の2館、2023年は「109シネマズプレミアム新宿」と「TOHOシネマズすすきの」、「イオンシネマとなみ」(富山県砺波市)、「TOHOシネマズららぽーと門真」(大阪)の4館のみの開館にとどまっている。
一方、2022年には「ディノスシネマズ旭川」(北海道)、「大津アレックスシネマ」(滋賀)、「イオンシネマ西大和」(奈良)が閉館し、2023年には「フォーラム八戸」と「佐久アムシネマ」が閉館している。
– 既存興行館
既存興行館は64館147スクリーンとなり、10年間で、映画館数32館減、スクリーン数76スクリーン減となっている。2010-2013年、映画上映のデジタル化が進み、デジタルシネマ機の導入という大規模な設備投資に耐えられない既存興行館の閉館が続き、1年に15-20館が閉館する年が続いたが、現在は落ち着いた状況となっている。
既存興行館の中には、ミニシアター的なプログラム編成に変えてシネコンのプログラムと差異化する映画館が増え、閉館した既存興行館が、別の運営団体によって再開される例も増えている。また、「新しい」既存興行館の開館もあり(シネマサンライズ日立、大川シネマホール(福岡)等)、従来の「シネマコンプレックス」「既存興行館」「ミニシアター/名画座」という分類で映画館の現状を把握することが難しくなっている。
– ミニシアター/名画座
ミニシアター/名画座は、140館244スクリーンで、この10年間で21館47スクリーンも増加している。2022年には東京・墨田区に「ストレンジャー」と世田谷区に「シモキタ-エキマエ-シネマ K2」という個性的なミニシアターが開館、島根県益田市には閉館した映画館を再開する形で「小野沢シネマ」が、神戸でも「キノシネマ神戸国際」(「神戸国際松竹」跡)が開館している。2020-2021年にいったん閉館した「鶴岡まちなかキネマ」と豊岡劇場は2023年3月に再開を果たした。2023年に「キノシネマ新宿」(「EJアニメシアター」跡)、大阪市に「扇町キネマ」、山口県下関市に「シネマポスト」が開館、2024年3月に神奈川県小田原市に「小田原シネマ館」が開館を予定している。
鳥取県湯梨浜町では元・小学校の教室をリノベーションした上映の場「ジグシアター」が2021年7月から上映を始めている(毎月1企画10日間程度)。映画館とは異なる上映の場として、岩手県宮古市に「シネマ・デ・アエル」(2016)、秋田市に「アウトクロップシネマ」(2021)、岡山県真庭市には「ビクトリーシアター」(2022)が開館している。このような、従来の「興行」とは異なる上映の場をつくる動きは、今後も増加すると思われる。
一方で、2022-2023年にはミニシアター閉館のニュースも多く聞かれた。2022年7月、ミニシアターの草分けである「岩波ホール」(東京・神保町)が閉館、関西のミニシアター文化を牽引してきた「テアトル梅田」が9月に、永年親しまれてきた名画座「ギンレイホール」が11月に閉館している。2023年には名古屋の老舗ミニシアター「名古屋シネマテーク」と「名演小劇場」が7月、11月に相次いで閉館、9月にはリニューアル開館から4年ほどの「京都みなみ会館」が閉館した。(名古屋シネマテーク閉館後、同じ場所に「ナゴヤキネマ・ノイ」が2024年3月に開館)また、盛岡市のミニシアター「アートフォーラム」が、建物の老朽化による取り壊しにより2023年4月に閉館(別の場所に再建が決定)している。2024年に入ってからも、仙台の「チネ・ラヴィータ」、福岡の老舗映画館「中洲大洋」と閉館のニュースが続いた。
既存興行館やミニシアターのように小規模な映画館では、コロナ禍の影響を脱し切れていない館が多く、デジタルシネマ機の買い換えという大規模な設備投資も重い負担となっている。建物や設備の老朽化への対応も求められており、むしろ、コロナの影響から脱したと言われる2023年になって経営の悪化が深刻化する映画館も少なくない。映画館継続のための支援を求めるクラウドファンディングや募金活動を行う映画館も多く見られた。今後もこのような状況は続くと考えられ、何らかの対策が必要である。
成人映画館は、28館34スクリーンとなり、10年間で半減している。
地方別にみる種類別映画館数・スクリーン数
2023年の全国の映画館数は592館で、10年間で4館減少している。一方、スクリーン数は3682スクリーンで274スクリーン増となっている。いずれの地方でもスクリーン数は増加している。
関東地方を除くすべての地方で人口は減少しているが、北海道・東北地方は7.6%減少、中国・四国地方は5.9%減少となっており、他の地方に比べて人口の減少率が高く、年々減少率が上がっている。映画館数・スクリーン数の増減は人口の増減に対応して生じることが多く、スクリーン数の偏在、地域的不均衡が年ごとに進んでいる。
この10年間で映画館数が増えているのは関東地方と九州・沖縄地方で、九州・沖縄地方はこの10年間で7館74スクリーン増加している。全人口、全スクリーン数に占める各地方のシェアを比較すると、中部地方と九州・沖縄地方が人口シェアに比べてスクリーンシェアが1%以上高い。
シネコンは、ほとんどの地域において映画館数、スクリーン数ともに増加しているが、北海道東北地方では館数が1館減となっている。
2000-2008年までの毎年20-30館のシネコンが開館していた時期に比較すると、増加のペースは緩やかになっている。この10年間では、関東地方が13館137スクリーン増、近畿地方が4館52スクリーン増、九州・沖縄地方でも8館71スクリーン増と大幅に増加している。他方、北海道・東北地方は4スクリーン増、中国・四国地方は1館14スクリーン増にとどまっている。
「シネコン以外」の数値は、ほとんどの地方で館数、スクリーン数ともに減少しているが、「ミニシアター/名画座」は、北海道・東北地方以外ではいずれも10年前よりも増加している。この10年間で約40館のミニシアター/名画座及び既存興行館が開館しており、東京・大阪・名古屋・京都・広島といった大都市以外でも、大館市(御成座)、那珂市(あまや座)、青梅市(シネマネコ)、上越市(高田世界館)、上田市(上田映劇/トラウム・ライゼ)、丹波市(ヱビスシネマ)、益田市(小野沢シネマ)、下関市(シネマポスト)、唐津市(シアターエンヤ)、沖縄市(シアタードーナツ、シネプラザハウス1954)等々、20万人以下の中小市町村においてもミニシアターの開館が続いている。
「既存興行館」はこの10年で、関東で11館26スクリーン減、中部地方は10館21スクリーン減、近畿地方6館18スクリーン減となっている。この10年間で東京、名古屋、静岡、大阪、兵庫、広島など大都市の中心市街地にあった既存興行館も姿を消しつつある。
成人映画館は、全ての地方で減少している。
続きは「映画上映活動年鑑2023」に掲載!
映画上映を、公開作品や海外との比較からも詳しく分析しています。
また、続く章では全国の公共上映一覧もご紹介。
2つの特集「コロナ後のコミュニティシネマ」、「フィルム上映の現状を考える」もあわせてお読みください!
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