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【特集:コロナ後のコミュニティシネマ】
再生する映画館 ~映画館コミュニティシネマはみんなのもの~(2)

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2024年4月25日

この記事は、2023年9月22日・23日に開催した「全国コミュニティシネマ会議2023 in 高崎」のプレゼンテーション+ディスカッション「再生する映画館~映画館コミュニティシネマ はみんなのもの~」採録です。
ディスカッションは「再生する映画館~映画館コミュニティシネマ はみんなのもの~⑴」をご覧ください。


2023年5月8日、新型コロナウィルス感染症が「第5類感染症」に位置付けられたことによって様々な制限が解除され、2020年から3年間続いたコロナ禍は、ひとまず終息した。全国の映画館が閉館となり、町から人が消えてしまったことはもう遠い過去のようにも感じられる。しかし、コロナ禍は、私たちの生活のあり方や考え方に少なからぬ変化を及ぼした。そして、映画館を取り巻く状況もまた変化している。2023年秋の時点では、入場者数はコロナ以前の水準には戻っていないという実感をもつ映画館が大半を占めていた。さらに、多くの映画館が、導入から10年余りを経たデジタルシネマ機の更新の時期を迎え、大規模な設備投資が必要となっている。映写機のみならず、施設の老朽化は深刻であり、物価や光熱費が上がる中で、地域の映画館の苦境は続いている。

そのような状況の中、火災を乗り越えて2023年12月に“奇跡の復活”再建を果たした「小倉昭和館」や、他館との差異化を試みるシネマコンプレックス「ミッドランドスクエア シネマ」など、映画館は新たな展開を模索している。

全国コミュニティシネマ会議2023採録

プレゼンテーション+ディスカッション

再生する映画館~映画館コミュニティシネマはみんなのもの~

全国コミュニティシネマ会議2023 in 高崎

登壇者


プレゼンテーション
樋口智巳[小倉昭和館株式会社代表取締役-館主]
酒井幸治[ミッドランドスクエア シネマ/中日本興業株式会社興行部部長]
ディスカッション
渡辺祐一[合同会社「東風」]
岩崎ゆう子[一般社団法人コミュニティシネマセンター]

司会:北條誠人[ユーロスペース支配人]

プレゼンテーション 1


小倉昭和館の再建

樋口智巳[小倉昭和館株式会社代表取締役-館主]

「小倉昭和館」は、2022年8月10日の旦過市場の大火災により、創業83年の記念日を前に消失してしまいました。いまは劇場がないのですが、今年12月に再建をしようとしています。昭和館はもともと芝居小屋兼映画館として運営していて、市内に姉妹館を3つ持っていました。1960年代の北九州市には113館の映画館がありましたが、シネコン以外は当館だけになり、それも焼けてしまいました。20年来の赤字続きの映画館だったこともあって当初は、再建は考えられませんでした。それに昭和館は賃貸で家主さんに家賃を払っていました。ですから最終的な判断は家主さんがされるわけです。

小倉昭和館・樋口智巳さん

火災の後、4日目にリリー・フランキーさんが来てくださり、「再建しましょう。クラウドファンディングをやりましょう」と言われました。クラウドファンディングをやろうにもプレゼンの資料も十分に作れない、無理ですとお答えしたのですが、それでもなお、やりましょうと言ってくださいました。それに加えて新聞やテレビ、マスコミが、この場所にはこの映画館が必要だとアピールしてくださって、家主さんが「映画館を建てないわけにはいかないね」と言われて、建てていただけることになりました。再建を決めて、親会社からは独立して「小倉昭和館株式会社」を立ち上げました。社員は私と息子です。建物は大家さんに建てていただきますが、映画館の空調機器や映写機材、客席シート…すべてを小倉昭和館で賄わねばなりません。コロナ禍で、映画館が閉館していく中で、なぜやるのかと言われますが、全国から1万7000筆を超える「北九州市に小倉昭和館の再建支援を求める」署名をいただき、こんなに多くの方々が求めてくださっているのだからと、とにかく走り出しました。いまは、息子と二人で開設準備を進めていて、毎日ボランティアの方々にも来ていただいています。

「まちの映画館」をつくる

リリー・フランキーさんがクラウドファンディングの応援団長になってくださって、こんな言葉を寄せてくださいました。


 度重なる火災で焼失したものは、生活や、想い出、そして、未来でした。

 自宅にいても手軽に映画と接触できる今。でも、映画と僕たちの関係は、知識だけでは成り立ちません。映画を求めて、時間やお小遣いを切り詰めて、そこに赴いた経験。
 その経験こそが、僕たちの感受性を培ってきくれました。

 今回、焼失した小倉昭和館を皆様にお伝えしたのは、観客の少ない家族経営の三番館を再度作る為ではありません。

 町の映画館という場所が、改めて、子供たち、大人たちの語らいの居場所でありますよう。そこに行けば、年齢、性別、人種に関係なく、食事をしながら、今観た映画、いつかの人生をささやき合えますよう。
 映画、映画館を媒介に、すべての人が集える、とまり木になれれば。

 それは、懐古的な想いではなく、文化という、人々の未来の為に。

リリー・フランキー

小倉昭和館クラウドファンディングWebサイトより

クラウドファンディングでは、4000万円を超えるご支援をいただくことができました。

今建設中の昭和館は134席で以前よりも小さな映画館になりますが、受付を奥の劇場の入口のそばに設置し、ロビーをパブリックスペースにしました。映画をご覧になる方だけでなく、いろいろな方に立ち寄っていただける場所にしたいと思いました。昭和館の周りの旦過市場の方々はまだ復活できていません。お店を持てなくなった方もいらっしゃいます。そういう方々が立ち寄れる場所になればと思います。旦過市場の4月の火事の際には昭和館は焼けなかったので2週間営業を休んで、警察や消防の人たちが手を洗ったり、介抱していただいたりする場所として使っていただきました。2回目の8月の火事の際は手を洗う場所、集まる場所もなくなり、「居場所」が必要だと切実に感じました。座席数を少し減らしても、人が立ち寄れる場所をつくりたい、映画館の入り口を映画への入り口にしたいと思いました。

皆さんとつくる、皆さんの映画館

「小倉昭和館」は、祖父が何もないところからつくり、父が、映画が「斜陽産業」となって赤字を出しても、人に頼らず、歴史に支えられた映画館でした。けれど、これからは人々の思いに支えられ、一緒につくっていただく映画館です。新しい映画館名を決める際も、皆さんにご相談をしたところ、2000人もの方が投票してくださり、思い出や思いを書いてくださる映画館です。これまでの昭和館は樋口家が三代で守ってきたプライドもありましたが、新しい昭和館は、皆さんとつくる、皆さんの映画館にしたいのです。皆さんが参加してくださる映画館、そういう映画館を目指していきたいと思っています。

メディアの方々にも協力していただいています。宣伝広告費はありませんが、イベントをやる際には主要全紙が書いてくださいます。焼けて何もかもなくなったと思っていたとき、西日本新聞さんが『復活の夢を一緒に—小倉昭和館の軌跡—』をという冊子をつくって6000部も印刷してくださいました。「あなたの12年はなくなっていない、こういうことをいままでやってきた映画館なんだよ」と書いてくれました。この冊子の完成に合わせて義援金のための口座を作りました。この会場にも、クラウドファンディングにご協力いただいた方がいらっしゃると思います。ありがとうございます。11月末には文藝春秋社から『映画館を再生します。 小倉昭和館、火災から復活までの477日』という本が出版されます。火災から一週間もしないうちに文藝春秋社の担当の方がいらっしゃって、本を出しましょうと言ってくださいました。

12月に再建をしても、運営はそう簡単にはいかないと思いますが、いつ来てもワクワク楽しい場所と思ってもらえるような場所にしていきたいと思います。

北條

小倉昭和館の再生がマスコミを巻き込み、多くの方々からのクラウドファンディングが集まっています。小倉昭和館が、小倉という町、地域の文化資源として、まちづくりの中に十分に生きているのではないかと思います。

昔の小倉昭和館(左)と現在の小倉昭和館(右)


プレゼンテーション2


シネコン「ミッドランドスクエア シネマ」の試み

酒井幸治[ミッドランドスクエア シネマ/中日本興業株式会社興行部部長]

「中日本興業株式会社」は2025年で創業70周年を迎えます。名古屋で映画館をやってきました。17年ほど前、2006年に名古屋駅前に複合商業ビル「ミッドランドスクエア」ができる際に、シネコン「ミッドランドスクエア シネマ」も開館しました。当初は7スクリーンでスタートし、2016年に新しいビル「豊田シンフォニービル」が建つ際に「ミッドランドスクエア シネマ2」をオープンし、現在は計14スクリーンの2館体制で運営しています。もう1館、名古屋空港の空港ビルの中に「ミッドランドシネマ名古屋空港」12スクリーンがあります。この14と12というスクリーン数にはこだわりがあります。通常のシネコンでは、都市型で12スクリーン、郊外型では10スクリーンあれば十分と言われていますが、弊社の社長は「プラス2」にこだわっていました。映画を盛り上げていくために「裾野」を広げることが必要であると考え、その裾野である商品(映画)のラインナップを増やすために、プラス2スクリーンを設けています。といってもそんなにうまくいくわけもなく、基本的には観客が入りそうな作品をできるだけ集め、キャパや回数を考えながら進めてきました。

ミッドランドスクエアシネマ・酒井幸さん

コロナ前の2019年の興行収入は約2600億円と過去最高を記録しましたが、ミッドランドスクエアシネマも過去最高の興行収入(31.4億)、動員(202万人)となりました。翌2020年にはコロナ禍でほぼ半分くらいに落ち込みました。そのとき、作品が来ないと我々はどうすることもできないのだと痛感しました。お客様が減る中で何をすべきかを考え、それまで受け身だった体制から能動的にやっていかねばならないという考えに至りました。我々の中では、「まずはやってみる」がキーワードになっています。できない理由を考えるのではなく、とにかくまずはやってみることを大事にしてきました。

予告上映&宣伝大会、月イチトークライブ

これまでに行ってきたイベントをご紹介いたします。

まずひとつ目が「予告上映&宣伝大会」です。これは予告編を上映して、お客様にこれから公開される映画を紹介するイベントです。松竹、東映、東宝東和、ギャガなどの宣伝の担当者に来てもらって、6月には夏公開の作品を、11月には年末~お正月の作品を紹介してもらいます。予告編はお金を得るためにつくられているものではないので、有料でやってよいのかグレーな部分もありましたが、やっていただける配給会社と進めました。一回目は予告編をつくっている人たちに予告編のつくり方や見方を話していただき、字幕翻訳者の戸田奈津子さんに来ていただいて、字幕のつけ方や映画への思いをお話していただきました。予告を見せるだけでなく、映画を楽しんでいただくためのいろいろな切り口をプラスアルファで行ったイベントです。

名古屋在住の映画パーソナリティの松岡ひとみさんと組んだ月イチトークライブ「松岡ひとみのシネマコレクション」も始めました。最初は160席のシアターでお客様は30人くらいだったのですが、50回と回を重ねるうちにようやく120-160人にきてもらえるようになりました。このイベントでは映画の紹介に加えて、普通の舞台挨拶とは違う切り口のトークショーを行っています。『劇場版ねこ物件』を取り上げたときには作品に登場した猫をゲストに迎えました。

月イチ35ミリフィルム上映会

ミッドランドスクエアシネマが開館した当時、7スクリーンはすべて35ミリフィルムで上映していましたが、その後すべてデジタル映写機に変わり、フィルム映写機は撤去しました。けれど、2016年にミッドランドスクエアシネマ2を建てた際に、フィルム映写機を再導入しました。いろいろな上映形態があったほうがお客様に楽しんでいただけるのではないかと考えたからです。2019年から月に1週間、毎日1本フィルム上映をする「月イチ35ミリフィルム上映会」を始めて、2022年までに44作品を上映し、約4600名に来場していただきました。興行収入でいうと550万円、毎回100人ほどが来場されている計算になります。旧作はデジタル化されていないことも多く、監督たちにも非常に喜んでいただけます。作り手のほうから「こういう作品をぜひ上映してください」とお声がけいただくこともあり、イベントの継続につながっています。また、フィルム上映会に参加してくださったお客様の中から応募を募って「バックヤードツアー」、フィルム映写室見学も行っていて、好評を得ています。

ミッドランドスクエアシネマ フィルム上映会チラシ

ネイティブ言語上映会

また、「ネイティブ言語上映会」という企画を貸館で行っています。例えばインド映画の字幕なしの母国語上映、観客は近隣に住んでいるインド人の方々で、インド映画を扱っている配給会社がSNSなどを通してコミュニティ向けに発信しています。インド映画の上映は、2021年11月に始まり、これまでに10回行いました。新作も上映していて、インドでの公開と同時にミッドランドスクエアシネマでも上映されるということもあり、日本に住む方が、現地の方と共有して楽しむことができると好評です。10-11月にはネパール映画のネイティブ言語上映会を行います。

インド映画の母国語上映会をやって感じたのは、映画館がインド人の方が集まる場となっているということです。現在、領事館に協力をしてブラジル映画祭の準備をしていますが、領事館の方自身は日本に来て6年たつが映画館には一回も行ったことがないといいます。ポルトガル語の字幕がつかないので映画館には行かないと。愛知県には約6万人のブラジル人が住んでいるのです。映画館としては、もったいないなと感じると同時に、何かできることはないのかなと思います。

ライブも行っています。昔はアイドル系のライブをやっていましたが、今は吉本さんと一緒になって2週間に一回お笑いライブ「よしもと名駅四丁目ライブ」を実施しています。

「パイロットフィルムフェスティバル」というのは、上映が始まる前のCMの時間を使って、新しい若い作り手の「パイロットフィルム作品」(5分以内)を上映するものです。随時、作品を募集して、応募作品を我々が審査し、2週間に1本のペースで約3ヶ月間かけて上映しています。ミッドランドスクエアシネマは年間で150万人が来場する映画館なので、若い映画作家、アマチュアの作品を発表する場を提供したいと思っています。

映画館の下にはドーナツの店舗をもっていて、映画館と連動して上映中の映画とコラボ商品をつくっています。ひつじのショーンを型取ったドーナツや、シティハンターの100トンのハンマーをかたどったものなどもつくりました。

このように我々は「まずはやってみる」ということで進めてきました。当然失敗もありますが、成功も失敗もまずは数を増やすことかなと思っています。やれない理由を探すより、どうやったらやれるかを考えながら取り組んでいます。

北條

名古屋では、今年「名演劇場」と「名古屋シネマテーク」という二つのミニシアターが閉館しましたが、名古屋のシネコンからミニシアターはどのような存在として感じられるのでしょうか。

酒井

先ほど申しあげたとおり、我々は映画の裾野を広げることが大事であると思っています。ですから、その2館が閉館、休館したと聞いて映画館で見られる作品数が減るのではないかと心配しています。映画の裾野を広げるために、ミニシアター、シネコン、それぞれが取り組んでいくことが必要だと思います。名古屋地区の映画の裾野を広げたいという気持ちが一番ですね。

「全国コミュニティシネマ会議2023 in 高崎」の様子


この記事は「映画上映活動年鑑2023」(5月上旬より一般発売)の抜粋です。


2023年9月22日 全国コミュニティシネマ会議2023 in 高崎


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