映画館での上映―公開本数･公開作品

公開本数

映画の公開本数は、1955年以降2004年までは大体550 ～ 650本を推移してきた。その後、デジタル化の進行とともに増加し続け、2013年には日本映画、外国映画とも500本以上が公開され、公開本数は1000本を越えた。コロナ禍にあった2020年も日本映画506本、外国映画511本の1017本が公開されている。

2024年の公開本数は、日本映画685本、外国映画505本、合計1190本であった(日本映画連盟「日本映画産業統計」参照)。前年の2023年(1232本)から42本減少しているが、これは主に外国映画の公開本数が50本以上減少したことによる。

興行収入

2024年の興行収入は、日本映画が1558億円(前年比105.1％)、外国映画が511億8300万円(前年比69.8％)、合計2069億8300万円で前年を6.5％下回っている。コロナ前の2019年は非常に好調であった(2611億8000万円)こともあり、これと比較すると20.8％減となるが、10年前の2015年(2171億1900万円)とほぼ同水準を保っている。

日本映画の興行収入は前年比5.1%増、2019年(1421.92億円)と比較しても9.6%の増加となり、興収における日本映画のシェアは75.3％、外国映画は24.7%と前年以上に差が広がり、コロナ禍以降の外国映画のシェア低迷のトレンドが顕著になっている(2017-2019年の外国映画のシェアは45%以上)。

公開規模

コミュニティシネマセンターではネット上に掲載された情報等を元に独自に「公開作品リスト」を作成している。2024年の公開本数は日本映画604本、外国映画711本、合計1315本(都内1-2館特集上映のみでの公開作品を含めると1452本)という数値を得ている。映連発表の数値は日本映画685本、外国映画505本、計1190本(ODSを加えると1628本)で、取り分け、外国映画の公開本数に大きな開きが出ている。この要因としては以下のことが考えられる。

近年、旧作の特集上映やデジタルリマスター版の再上映が急増しており、特集上映の中には年をまたいで巡回が続くもの、多少プログラムを変更して再上映されるものも少なくない。

これらをどのような基準をもって公開作品にカウントするかによって、本数に大きな開きが生じることになる。コミュニティシネマセンターでは複数の映画館を巡回した特集上映についてはかなりのものをその年の公開作品としてカウントしており、2024年の外国映画の公開本数は前年を上回る711本という数値を示している。

両者の数値の違いが大きくなっている点は気になるところだが、前年からの継続性を鑑みて、以下ではこちらで得たデータを元に公開作品の中味を見てみる。

– 公開規模

2024年に「300館以上」で公開されたのは、日本映画67本、外国映画34本であった。

日本映画で370館以上で公開された作品は、興行収入が100億円を越えた『名探偵コナン100万ドルの五稜星』(4月)や『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』(2月)に加え、『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』(3月)、『「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』(2月)、『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』(12月)といった定番のアニメーションや、『キングダム 大将軍の帰還』(7月)、久しぶりのコンビ復活が話題となった『帰ってきた あぶない刑事』(5月)、「踊る大捜査線シリーズ」の最新作『室井慎次』の2作品(10-11月)、人気テレビシリーズの映画化『劇場版ドクターX』(12月)、『グランメゾン・パリ』(12月)など14作品に上る。

外国映画では、『怪盗グルーのミニオン超変身』(7月)、『インサイド・ヘッド2』(8月)、『モアナと伝説の海2』(12月)、『ウィッシュ』(2023年12月)、『ライオン・キング ムファサ』(12月)、『エイリアン ロムルス』(9月)、『猿の惑星 キングダム』(5月)、『FLY! フライ！』(3月)の8本が370館以上で公開された。興収を見ると最もヒットした『インサイド・ヘッド2』も53.6 億円にとどまっており、10億円に届かない作品も少なくない。コロナ禍前の2019年には133億円の興収を得た『アナと雪の女王2』を筆頭に、25本の作品が10億円以上の興収を上げていたことを考えると、現状は非常に厳しいものがある。

そんな中、本国では2023年に公開され、第96回アカデミー賞作品賞等を受賞した『オッペンハイマー』がようやく3月に公開されたことが大きな話題となった。35ミリフィルムでの上映も行われ、同作品公開時にはＣ．ノーラン監督の旧作2作品も上映されて多くの映画ファンを集めた。

2020年以降、シネコンはそれまで上映しなかった多様な作品を上映するようになった。また、コロナ以前の2019年までは150館以上で大規模公開される作品のほとんどは「シネコンのみ」で上映されていたが、2021年以降はシネコン以外の映画館、ミニシアターでも上映されることが増えている。シネコンとミニシアターの両方で公開される作品は、2019年は日本映画で104本(18％)、外国映画では125本(24％)であったが、2024年は日本映画で227本(38％)、外国映画では343本(48％)と倍増している。シネコンとミニシアターでの上映作品の明確な線引きはなくなりつつある。

そのような状況でも、ミニシアターでしか上映されない作品の割合はあまり変化していない。ミニシアターのみで上映される作品は日本映画では205本(34％)と前年比で7％減少しているが、外国映画では312本(44%)で、前年より9％も増加している。日本映画、外国映画を合わせると517本(39％)がミニシアターのみでの公開となっている。

ミニシアターでしか上映されない小規模作品の中には、国際映画祭等で高い評価を得た作品や、世界的巨匠の作品、重要なドキュメンタリー映画、多くの若い作り手たちの野心的な作品が含まれている。旧作のデジタルリマスター版のリバイバル上映や監督の特集上映なども、その多くがミニシアターのみで行われている。

– 公開作品の種類

■ 日本映画

2024 年の日本映画の公開本数は604 本と、前年より52 本減少している。

その内訳は劇映画344 本(40 減)、アニメーション63 本(30 減)、ドキュメンタリー89 本(5増)、公演やライブ等のODSが53 本(30増)、特集上映(旧作のデジタルリマスター版含む)が55 本(17 減)となっている。

上位3 位までをアニメーションが占めて圧倒的な集客力を見せた2023 年ほどではないが、2024 年も『名探偵コナン 100 万ドルの五稜星』が158 億円、『劇場版ハイキュー！！ゴミ捨て場の決戦』が116.4 億円と100 億円を越えたのをはじめ、『劇場版SPY xFAMILY CODE: White』、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』といったアニメーション作品6 本が興行収入のトップ10に入る強さを見せている。人気漫画のアニメ化作品『ルックバック』(6月)は、上映時間が58 分と短いにも関わらず、徐々に館数を広げ最終的には300 館を越える映画館で公開され、興行収入20.4 億円の大ヒットとなった。実写映画化もされた『がんばっていきまっしょい』のCGアニメ化作品が公開され、幅広い層の関心を集め、山下敦弘監督がアニメーション作家の久野遥子とともに監督を務め、ロトスコープという手法でつくられたアニメーション『化け猫あんずちゃん』も話題を集めた。

劇映画では前述の大規模公開作品に加え、ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』(2023 年12月)がシネコンとミニシアターの両方で公開され、公開館数は270 館を越え、興収も13.3 億円の大ヒットを記録している。

内外で高い評価を受けている濱口竜介監督(『悪は存在しない』4月)、三宅唱監督(『夜明けのすべて』2月)、黒沢清監督らの新作が公開され、特に黒沢監督は『蛇の道』(6月)、『Cloud クラウド』(9月)、『Chime』(8月)の三作品が公開され、ゆるぎない存在感を示している。国際映画祭では多くの若い監督の作品が注目を集めた。山中瑶子監督『ナミビアの砂漠』(9月)をはじめ、奥山大史監督『ぼくのお日さま』(9月)、空音央監督『HAPPYEND』(10月)、五十嵐耕平監督『SUPER HAPPY FOREVER』(9月)、呉美保監督の『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(9月)といった作品は多くの若い観客を集めた。また、清原惟監督『すべての夜を思いだす』(3月)、杉田協士監督『彼方のうた』(1月)、太田達成監督『石がある』(9月)などは映画館だけではなく、多くの映画祭や自主上映会でも上映された。東京国際映画祭で『敵』(吉田大八監督)が、日本映画として19 年ぶりにグランプリを受賞したことも話題を集めた。

また、池袋シネマ・ロサで上映がスタートしたインディペンデント映画『侍タイムスリッパー』(8月)がロングランヒット、公開館数が252まで広がったことも大きな注目を集めた。

2024 年も多くのドキュメンタリー映画が公開された。公開された89 本のうち、69 本がミニシアターのみで上映されている。2024 年のドキュメンタリー映画で最も注目されるのは藤野知明監督の『どうすればよかったか？』である。山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された同作は公開前から話題となり、公開されるや多くのミニシアターで満席が続き、シネコンにまで拡大公開される事態となった。また、死刑囚として47 年間獄中生活を送り、2024 年10月に無罪が確定した袴田巖さんを追ったドキュメンタリー『拳と祈り　袴田巖の生涯』(10月)、1992 年に起きた「飯塚事件」を30 年にわたって追い続けたＮＨＫ制作のドキュメンタリーの劇場版『正義の行方』(4月)、1998 年に起きた和歌山毒物カレー事件のドキュメンタリー『Mommy』(8月)といった事件を検証する作品が話題を集めた。

日本の公立小学校の子どもたちの生活を描き、海外で大きな注目を集めたドキュメンター『小学校 それは小さな社会』(12月)、児童養護施設で暮らす子どもたちの日常に密着した『大きな家』(12月)といった作品は、映画ファンに止まらない幅広い層の観客を得ている。

東日本大震災の被災地で作品を撮り続ける小森はるか監督『ラジオ下神白 あのとき あのまちの音楽から いまここへ』や土井敏邦監督の『津島 福島は語る・第二章』、沖縄を撮り続ける三上智恵監督『戦雲(いくさふむ)』、国際的に活躍する想田和弘監督『五香宮の猫』、自身の姉とその娘を撮り続ける伊勢真一監督の『大好き 奈緒ちゃんとお母さんの50 年』なども公開され、多くの観客を集めている。

■ 外国映画

外国映画は、2024 年は711 本が公開された。ジャンル別では、 劇映画の新作が333本(29 増)、アニメーション32 本(7 増)、ドキュメンタリー53 本(2減)、ODS43本(10 減)、特集上映(旧作のデジタルリマスター版含む)は250 本(53 増)となり公開作品全体の35％を占めている。前述のように、2024 年、外国映画で最もヒットしたのは『インサイド・ヘッド2』(53.6 億円)で目立ったヒット作品はなかった。興収10 億円以上の作品は10 作品に留まっている。

そのような中でも『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(10月)や、ヨルゴス・ランティモスの『哀れなるものたち』(1月)と、『憐れみの3 章』(9月)といった作品がシネコン＋ミニシアターで大規模公開され、多くの映画ファンを集めた。

大作以外のアニメーションでは、ミニシアターを中心に公開された『ロボット・ドリームス』(11月)がヒット、新潟国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞した村上春樹の小説を映画化したフランスのアニメーション『めくらやなぎと寝る女』も、深田晃司監督による日本語吹き替え版がつくられたことなども話題を集め、堅調な興行となった。

アキ・カウリスマキ監督(『枯れ葉』2023 年12月)、ビクトル・エリセ監督(『瞳を閉じて』2月)、といった巨匠たちの新作の公開も大きな話題となった。イタリアの巨匠マルコ・ヴェロッキオ監督が「アルド・モーロ誘拐事件」を映画化した大作『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』(8月)が話題を集め、同監督の『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』(4月)もミニシアターを中心に上映されている。

ドキュメンタリーは53 本が公開された。『ジョン・レノン 失われた週末』（5月）が100 館以上で公開されたのをはじめ、音楽系のドキュメンタリーが多いが、ウクライナでの戦争を撮った『マリウポリの20日間』（8月）や、悪化の一途を辿るパレスチナ・イスラエル状勢をうけて『ガザ・サーフ・クラブ』（2023 年12月）、『私は憎まない』（10月）、『ガザからの報告』（日本映画/10月）といった作品が公開されている。イランの名匠モフセン・マフマルバフ監督とハナ・マフマルバフ監督がアフガニスタンとイスラエルで撮った2 作品（『子どもたちはもう遊ばない』『苦悩のリスト』12月）も公開された。また、ドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマン監督の『至福のレストラン三つ星トロワグロ』（8月）、ワン・ビン監督の『青春』（4月）といった重要な作品もミニシアターを中心に上映されている。

外国映画が不調と言われる中でも多くの配給会社によって様々な国の作品が配給され、上映環境の多様性が保たれている。

ブラッド・ピットとジョージ・クルーニーがW主演を務める『ウルフズ』(Apple 製作)は9月に日本で配信前の限定公開が予定されていたが、直前に公開中止が決定、Apple TV＋での配信のみとなり、クリント・イーストウッド監督の最新作『陪審員2 番』も12月にU-NEXTでの配信が始まり、劇場公開の見込みは立っていない。

コロナ禍の2020 年以降に顕著な傾向として旧作のリバイバル公開、特集上映が非常に増えているということがある。2024 年も多くの旧作のデジタルリマスター版が公開され、30を越える特集上映が行われている。

デジタルリマスター版のリバイバル公開では、『グラディエーター』(2000)、デヴィッド・リンチ版『デューン/ 砂の惑星』(1984)、『ロード・オブ・ザ・リング』3 部作のスペシャル・エクステッド・エディションといった大作のデジタルリマスター版が、シリーズ最新作の公開に合わせて上映されたほか、1980～2000 年代初頭にミニシアターを中心に大ヒットした『リトル・ダンサー』『ラブ・アクチュアリー』『シュリ』『レザボア・ドッグス』『ピアノ・レッスン』『バグダッド・カフェ』『テルマ＆ルイーズ』『ラスト・エンペラー』といった作品が次々に公開され、新旧の映画ファンを喜ばせている。『風が吹くとき』や『ウォーターシップダウンのうさぎたち』といったアニメーションも含め、旧作のデジタルリマスター版は70 本近く公開された。

また、特集上映も非常に多く行われている。
2022 年は22 企画、2023 年26 企画、2024年は30 企画を越える特集上映が組まれ、180 本を越える映画が上映されている。(特集の再上映を含む)以下に主な特集を挙げてみる。

旧作の特集上映が盛んに行われるという現象は、日本特有のものではなく、ヨーロッパでも同様であり、コロナ後の映画館で若い観客を拡大する一助ともなっているようである。

興行収入10億円を越える映画/10億円以下の映画

2024年、興行収入10億円を越えた映画は日本映画31本、外国映画10本の41本(2023年49本、2019年65本)であった。本数では全公開本数1190本の3.4%、興行収入では、日本映画約1050.1億円、外国映画252.6 億円で合計1302.7億円となり、全興行収入の62.9％(2023年66.1％、2022年72%)を占めている。