映画館での上映―諸外国との比較[2023]
この記事は、2025年3月発行「映画上映活動年鑑2024」からの抜粋です。
Research & Reportsより全文をお読みいただけます。

映画上映活動年鑑2024
A4変形/ 202ページ/2025年3月刊行
委託:独立行政法人日本芸術文化振興会委託事業「令和6年度文化芸術活動の動向把握に向けた基礎資料収集事業」
I 映画館での上映
概況|公開本数・公開作品|➡諸外国との比較|都道府県別概況|全国映画館リスト2024
Ⅱ 公共上映
全国映画祭リスト2024
公共の映画専門施設(シネマテーク)及び映画資料館など
映画館以外で行われる上映活動
Ⅲ 特集|映画館(上映活動)の現状に関する詳細調査
「映画館(上映活動)の現状に関する詳細調査」について
映画館(上映活動)の現状に関する詳細調査
課題と展望
全国コミュニティシネマ会議2024採録
プレゼンテーション+ディスカッション:
“学びの場”としての映画館―映画館が「クリエイター」を育成する
Ⅳ 都道府県別上映施設一覧
Ⅴ 上映に関わる用語
2025年1月末現在、まだ、諸外国の2024年のデータはインターネット上に公開されていないため、以下では、2023年の日本と諸外国のデータを比較している。
観客数
2020~2022年、世界中の映画産業がコロナ禍で大きな打撃を受けた。2023年には各国ともコロナ前の状況に戻りつつあるが、その度合いにはかなり差があるようだ。2023年、日本の観客数は1億5553万5000人となり、10年前(2014年)の97%、ほぼコロナ前の水準にまで回復している。日本以外ではフランスが2014年比86%、イギリス78%、オーストラリア74%と、70%以上まで回復しているが、アメリカ・カナダは65%、韓国は58%に留まっている。
そのような中、やや異常な変化を見せているのが中国である。中国の観客数は、2021年に急速な回復を見せた後、2022年にコロナ禍と同じ水準にまで落ち込み、2023年には一気に2015年の水準まで回復している。
観客数を人口で割った国民1人当たりの年間鑑賞本数は、韓国が2.4 本(← 4.2)、アメリカ・カナダ2.2本(← 3.6)、フランス2.7 本(← 3.3)、オーストラリア2.2本(← 3.4)、イギリスは1.8本(← 2.4)となっている。日本人の年間鑑賞本数は2020年以降、着実に回復し、2021年0.9 本、2022年1.2 本、2023年1.3 本となったが、他国に比べると元々鑑賞本数が少なく、ドイツ、中国と最下位を争っている。

映画館数・スクリーン数
シネマコンプレックスの増加を背景にいずれの国も、2019年までスクリーン数は増加を続けていたが、2020年は減少に転じ(フランスと日本のみ微増)、コロナ禍の影響が懸念されたが、2021年以降は多くの国が微増となり、2023年も極端な変化はみられない。10年前と比較するとすべての国で増加しており、特に、韓国では約1.5 倍、中国では3倍以上に増えている。コロナ禍以後、すべての国において、様々な形で映画館を守るための支援策がこうじられたことなどにより、コロナ禍による閉館は小規模なものにとどまったと考えられる。
2023年のスクリーン数は、中国が8万6310スクリーンと群を抜いている。また、アメリカ・カナダが4万1077スクリーンと他の国に比べて圧倒的に多く、次いでフランスが6320、ドイツ4901、イギリス4749スクリーンと続く。
人口をスクリーン数で割った「1スクリーン当たりの人口」は、その数値が低いほどスクリーンが多い、身近にスクリーンが存在しているとみることができる。この数値をみると、日本は33,778人に1スクリーンと、他の国に比べてスクリーンが極端に少ない。アメリカ・カナダは9,319 人に1スクリーン、フランスは10,512人に1スクリーンで、日本以外の7ヶ国はいずれも1スクリーン当たりの人口が1万人台におさまっており、日本のスクリーン数は、アメリカ・カナダの4分の1、フランスやオーストラリアの3分の1、韓国、ドイツ、イギリス、中国の2分の1程度しかない状態が続いている。


興行収入・入場料金
コロナ禍の2020年、2021年と興行収入第1位となった中国は、2022年に失速したが、2023年には前年を40%近く上回る回復ぶりをみせ、アメリカ・カナダに迫りつつある。日本は、アメリカ・カナダ、中国についで第3位の位置を保持し続けている。フランス、ドイツ、イギリスというヨーロッパの三ヶ国が順調な回復ぶりをみせている。
いずれの国においても平均入場料金が2020年以降、かなり上がっている。物価の上昇が入場料金にも反映していると見ることができるが、コロナ禍で、それまで観客層の中心であった高齢者層の観客が減少し、シニア割引の割合が減っていることもその一因となっているかもしれない。日本の入場料金は平均1,424円で、前年と比較すると20円以上上昇している。
諸外国の興行収入、入場料金は、日本の興行収入のUSドルで発表された数値と円で発表された数値からレートを算出し、円で表示している。(2023年当時1$=約140円)この数年、円安が急速に進んでおり、現在では日本と欧米の映画館の入場料金はさほど変わりがない。アメリカ・カナダやドイツ、オーストラリアは日本よりも高い。他国に比較して「高い」と言われ続けてきた日本の入場料金は他国より安いものとなりつつある。
2023年、欧米各国の興行収入の上位を占めているのは『バービー』、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『オッペンハイマー』といった日本でも大ヒットしたハリウッド映画の大作、話題作である。このような作品が非常に限られていた2024年の数値がどのようなものになるのかが懸念される。

1スクリーン当たりの観客数・興行収入
1年間の観客数をスクリーン数で割った1スクリーン当たりの観客数をみると、いずれの国も10年前と比較するとかなり低くなっている。日本は、2020年には28,928人と前年2019年の54%まで下がったが2023年には42,242人にまで回復、2014年の47,894人にかなり近い数値となっている。
2023年の1スクリーン当たりの1年間の興行収入をみると、日本は約6,015万円とトップの数値を示している。他の国に比較してスクリーン数が少なく、入場料金が高いことが1スクリーン当たりの観客数や興行収入の高さの背景にある。2023年、欧米の映画館の1スクリーン当たりの興収は、アメリカ・カナダが2,945万円、フランスは3,194万円、ドイツは2,889万円と日本の約半分となっている。

シネマコンプレックスの割合
フランス、韓国とも、映画館数やスクリーン数に大きな変化はみられなかった。
シネコンの割合が高いのは韓国で、全3371スクリーン中3151スクリーン、93.5%をシネコンが占めている。日本のシネコンのシェアも3682スクリーン中3257スクリーン、88.5%と高い数値を示している。
フランスは、シネコンの比率は44.8%にとどまっており、映画館数では、シネコン249館に対し、シネコン以外の映画館が1805館と、シネコンを大きく上回っている。(フランスはシネコンの定義を「8スクリーン以上」としており、他国が「5~7スクリーン以上」としていることと異なる)また、約1300館が多様な映画を上映する「アー・エ・エセイ映画館」(アートハウス、日本のミニシアターに近い)に認定されており、国や自治体から助成金を得ている。フランスの映画館数は2054館と日本の592館の3倍以上であり、人口1~2万人の中小の市町村の73%に映画館がある。身近な場所で多様な映画を見ることができる環境が保持されている。

公開本数
コロナ禍で欧米各国の公開本数は激減したが、2023年には各国ともコロナ前の2018年とほぼ変わらない数の作品を公開している。1本当たりの観客数は10年前と比較すると低い数値に留まっている。特に、公開本数が1410本と非常に多い韓国では1本当たりの観客数が88,752人と厳しい数値を示している。
日本では、2019年、自国映画/外国映画の割合は、公開本数、興行収入とも5.4:4.6と、他国に比べて非常にバランスの取れた状態となっていた。しかし、興行収入のバランスは大きく崩れ、2020年は日本映画76%、外国映画24%となり、2023年においても日本67%、33%とその差が広がり続けている。

映画館に対する恒常的な支援制度
日本以外のいずれの国にも、映画産業と映画文化を統括し振興する組織(フランスのCNC、イギリスのBFI、ドイツのFFA、韓国のKOFICなど)があり、製作・配給・興行(上映)・教育・保存、放映や配信にいたるまで、映画に関わるあらゆることに関与している。上映活動についても、シネコンのような商業的な大規模映画館での上映から、多様な映画を上映するミニシアターやシネマテーク、自主上映まで、様々なレベル、種類の上映活動を支援する制度が確立している。
公的な支援、振興策には、単に金銭的な支援という以上の意味がある。公的な支援を受ける映画館には、公共的な文化施設として、地域コミュニティや文化団体との連携を重視したプログラム作りや若年層の観客開拓、映画教育プログラムなど多様な活動を行うこと、そのような活動を行うスタッフを育成することも求められる。そのことにより、地域における文化的な存在感、持続可能性も高くなる。
ほとんど公的な支援を受けずに、140館をこえるミニシアターが、大都市のみならず中小都市にも存在し、運営されている日本の状況は、諸外国から見ると「miracle(奇跡)」なのである。しかし、奇跡は永遠に続くものではない。
この20年間で映画館は200館以上も減っており、映画館のない市町村、映画館空白地域が広がり続けている。関係者の献身と犠牲によって成立してきた小規模な映画館の運営は限界に近づいていると言わざるを得ない。映画振興策の見直し、映画館支援、上映者の実態に対応した助成プログラムの実現が待望されている。