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2024年 映画館での上映―概況

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2025年5月28日

この記事は、2025年3月発行「映画上映活動年鑑2024」からの抜粋です。
Research & Reportsより全文をお読みいただけます。

映画上映活動年鑑2024
A4変形/ 202ページ/2025年3月刊行
委託:独立行政法人日本芸術文化振興会委託事業「令和6年度文化芸術活動の動向把握に向けた基礎資料収集事業」
 
I 映画館での上映 
概況|公開本数・公開作品|諸外国との比較|都道府県別概況|全国映画館リスト2024
Ⅱ 公共上映
全国映画祭リスト2024
公共の映画専門施設(シネマテーク)及び映画資料館など
映画館以外で行われる上映活動
Ⅲ 特集|映画館(上映活動)の現状に関する詳細調査
「映画館(上映活動)の現状に関する詳細調査」について
映画館(上映活動)の現状に関する詳細調査
課題と展望
全国コミュニティシネマ会議2024採録
 プレゼンテーション+ディスカッション:
 “学びの場”としての映画館―映画館が「クリエイター」を育成する
Ⅳ 都道府県別上映施設一覧
Ⅴ 上映に関わる用語


2024年 映画館での上映―概況

概況

日本映画製作者連盟(映連)の2024年「映画産業統計」(2025年1月発表)によると、2024年の観客数は1億4444万1000人で、「ほぼ新型コロナウイルス禍前の水準に戻った」とされる前年(2023年)の92.9%、興収は2069億8300万円で93.5%となった。

日本映画の興行収入は1558億円(前年比105.1%)で、歴代1位だった2016年の1486億円を大きく上回り、新記録となった。一方、外国映画は511億8300万円で前年比69.8%、コロナ前(2019年)の43%程度にとどまっている。日本映画と外国映画の興収のシェアは75.3:24.7と前年以上に差が開き、圧倒的に日本映画が強い状況が続いている。

2024年もアニメーション作品が興行収入の上位を占めた。上位4位までをアニメーションが独占した前年ほどではないが、100億円を越えた『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』(158億円)、『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』(116.4 億円)を初め、上位10作品中6作品がアニメーションとなっている。興収が10億円を越える作品は41本で、全興収の62.9%を占めている。(2023年66.1%) 

映画館数・スクリーン数

2024年のスクリーン数は3709スクリーンで、前年から27スクリーン増加、映画館数は594館で2館増加している。2015年から2024年の10年間では、館数は15館、スクリーン数は242スクリーン増加している。シネマコンプレックス(シネコン)が22館256スクリーン増加し、シネコン以外の映画館は7館14スクリーン減少している。

シネコンは3291スクリーンで、全スクリーンの89%を占めている。館数でも、2011年以降はシネコンが「シネコン以外」の館数を上回り、2024年はシネコン363館、シネコン以外231館で、シネコンが61%となっている。

20年前、2005年の映画館数は806館であったが、その後の10年間で200館以上減少し、2015年には579館となっている。特に映画館のデジタル化が進められた2011~2013年の2年間で約80館減少した。2024年の映画館数は594館で、この10年間は映画館数に大きな変化はみられなかった。

コロナ禍による休館や観客の減少により閉館する映画館が増えるのではないかと懸念されたが、2020~2024年の4年間で閉館した映画館数はシネコンが13館、シネコン以外では約40館で、コロナの影響で特に閉館数が増えているという状況にはない。逆に、2020~2024年には23のシネコンが開館、シネコン以外でも20館が開館(再開は含まない)しており、これまでのところはコロナの影響は映画館の減少という形では現れていない。

観客数・入場料金

2024年の観客数は、1億4444万1000人で前年比92.9%となったが、日本映画の興収は1558億円と歴代最高を記録している。他方、外国映画の興行収入は511億8300万円で前年を下回っている。2023年は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』といったハリウッド映画の大作・注目作が公開されたが、2024年は特に目立った作品がなく、興行収入10億円以上の作品をみても『インサイド・ヘッド2』(53.6 億円)が第1位で、100億円を越えるような大ヒット作はなかった。

入場料金の平均は2020年以降、上昇を続け、2024年は1433円となった。2023年6月に大手のシネコンチェーンであるTOHOシネマズとTジョイが映画鑑賞料金を値上げ、一般料金は2000円となった。この後、他のシネコンも次々に鑑賞料金を値上げ、シネコン以外の映画館でも、他の物価や光熱費の上昇に合わせる形で入場料金の値上げに踏み切る映画館が増えている。

種類別にみる映画館数・スクリーン数の変化

– シネマコンプレックス(シネコン)

シネコンは363館3291スクリーンで最も多く、全スクリーン数(3709)の89%を占めている。10年間で22館256スクリーン増加している。2000年代に入ってから2008年までは、毎年20~30館のペースでシネコンがつくられてきたが、2009年以降はそのスピードは緩やかになり、2014年以降、2021年までは、年間5~10館が開館。2022年は「ユナイテッド・シネマ秩父」(埼玉)、「TOHOシネマズ ららぽーと福岡」の2館、2023年は「109シネマズプレミアム新宿」、「TOHOシネマズすすきの」、「イオンシネマとなみ」(富山)、「TOHOシネマズららぽーと門真」(大阪)、「シネマサンシャイン飯塚」(福岡)の5館、2024年は「イオンシネマ新青森」、「T・ジョイ エミテラス所沢」、「ローソン・ユナイテッドシネマSTYLE-Sみなとみらい」、「109シネマズゆめが丘」(神奈川)の4館が開館している。

一方、2022年には「ディノスシネマズ旭川」(北海道)、「大津アレックスシネマ」(滋賀)、「イオンシネマ西大和」(奈良)が閉館し、2023年には「フォーラム八戸」と「佐久アムシネマ」が、2024年には「MOVIX三郷」(埼玉)が閉館している。

– 既存興行館

既存興行館は62館139スクリーンとなり、10年間で、映画館数23館減、スクリーン数60スクリーン減となっている。2010~2014年、映画上映のデジタル化が進み、デジタルシネマ機の導入という大規模な設備投資に耐えられない既存興行館の閉館が続き、2010年に176館あった館数は5年間でほぼ半減、2020年には67館まで減少したが、現在は落ち着いた状況となっている。

既存興行館の中には、ミニシアター的なプログラム編成に変えてシネコンのプログラムと差異化する映画館が増え、閉館した既存興行館が別の運営団体によってミニシアターとして再開される例も増えている。また、「新しい」既存興行館の開館もあり(「シネマサンライズ日立」(茨城)、「大川シネマホール」(福岡)等)、従来の「シネマコンプレックス」「既存興行館」「ミニシアター/名画座」という分類で映画館の現状を把握することが難しくなっている。

– ミニシアター/名画座

ミニシアター/ 名画座は、142館246スクリーンで、この10年間で31館60スクリーン増加している。2022~2023年、「ストレンジャー」(東京・墨田区)、「シモキタ-エキマエ-シネマ K2」(世田谷区)、島根県益田市の閉館した映画館を再開した「小野沢シネマ」、「キノシネマ神戸国際」(「神戸国際松竹」跡)、「キノシネマ新宿」(「EJアニメシアター」跡)、「扇町キネマ」(大阪)、「シネマ203」(和歌山)、「シネマポスト」(下関)といったミニシアターが開館し、2024年には「キノシネマ心斎橋」、神奈川県「小田原シネマ館」、静岡県伊東市に「金星シネマ」が開館している。いったん閉館した「鶴岡まちなかキネマ」と「豊岡劇場」は2023年3月に再開を果たし、2023年に閉館した「名古屋シネマテーク」は2024年「ナゴヤキネマ・ノイ」として生まれ変わった。

映画館とは異なる上映の場、あるいは新しい形の映画館ともよぶべき場も次々に生まれている。鳥取県湯梨浜町では元・小学校の教室をリノベーションした「ジグシアター」が2021年7月から上映を始め(月1企画10日間程度)、秋田市には古民家を改装した「アウトクロップシネマ」(2021)、岡山県真庭市には「ビクトリィシアター」(2022)、長野県伊那市には“宿泊可能な複合施設”「赤石商店」(月に1週間程度)が開館している。このような、従来の「興行」とは異なる上映の場をつくる動きは、今後も増えていくものと思われる。

2022~2023年はミニシアター閉館のニュースも多く聞かれた。2022年7月、ミニシアターの草分けである「岩波ホール」(東京・神保町)が閉館、関西のミニシアター文化を牽引してきた「テアトル梅田」が9月に、永年親しまれてきた名画座「ギンレイホール」が11月に閉館している。

2023年には名古屋の老舗ミニシアター「名古屋シネマテーク」と「名演小劇場」が相次いで閉館、京都でもリニューアル開館から4年ほどの「京都みなみ会館」が閉館した。2024年には仙台の「チネ・ラヴィータ」、福岡の老舗映画館「中洲大洋」が閉館している。成人映画館は、27館33スクリーンとなり、10年間で半減している。

デジタルシネマ機の導入から10年を経て、映画館は新しい機材への更新、買換えの時期を迎えている。1台1000万円近い大規模な設備投資が必要であり、既存興行館やミニシアターのように小規模な映画館にとって、これをどう乗り切るかが喫緊の課題となっている。建物や設備の老朽化も進み、コロナの影響から脱したと言われる2023年以降に経営状況が深刻化している映画館も少なくない。コロナ禍においても映画館継続のための支援を求めるクラウドファンディングや募金活動を行った映画館は少なくなかったが、2024年には全興連によるミニシアター支援プロジェクト「#ミニシアターへ行こう!」が始まり、7館のミニシアターがクラウドファンディングに取り組んでいる(2025年1月末現在)。

地方別にみる種類別映画館数・スクリーン数

2024年の全国の映画館数は594館で10年間で15館増加、スクリーン数は3709スクリーンで242スクリーン増となっている。いずれの地方でもスクリーン数は増加している。人口は関東地方を除くすべての地方で減少しているが、北海道・東北地方は7.8%減少、中国・四国地方は6.5%減少と、他の地方に比べて人口の減少率が高く、減少率上昇の速度も速い。映画館数・スクリーン数の増減は人口の増減に対応しており、スクリーン数の偏在、地域的不均衡が年ごとに進んでいる。

この10年間で映画館数が増えているのは関東地方と中国・四国地方、九州・沖縄地方で、九州・沖縄地方はこの10年間で6館66スクリーン増加している。全人口、全スクリーン数に占める各地方のスクリーン数のシェアを比較すると、中部地方と九州・沖縄地方が人口シェアに比べてスクリーンシェアが1%以上高い。

シネコンは、ほとんどの地域において映画館数、スクリーン数ともに増加しているが、北海道・東北地方では館数が1館減となっている。2000~2008年までの毎年20~30館のシネコンが開館していた時期に比較すると、各地方とも増加のペースは緩やかになっている。この10年間では、関東地方が11館124スクリーン増、中部地方が3館37スクリーン増、九州・沖縄地方で7館61スクリーン増と大幅に増加している。他方、北海道・東北地方は2スクリーン増、中国・四国地方は1館14スクリーン増にとどまっている。

「シネコン以外」の数値は、ほとんどの地方で館数、スクリーン数ともに減少しているが、「ミニシアター/名画座」はいずれも10年前よりも増加している。この10年間で約40館のミニシアター/名画座及び既存興行館が開館しており、東京・大阪・名古屋・京都・広島といった大都市以外でも、那珂市(あまや座)、青梅市(シネマネコ)、上越市(高田世界館)、上田市(上田映劇/トラウム・ライゼ)、伊東市(金星シネマ)、丹波市(エビスシネマ)、益田市(小野沢シネマ)、下関市(シネマポスト)、唐津市(シアターエンヤ)、沖縄市(シアタードーナツ、シネマプラザハウス1954)等々、20万人以下の中小市町村でのミニシアターの開館も続いている。

「既存興行館」はこの10年で、北海道・東北地方以外のすべての地方で減少し、関東で6館16スクリーン減、中部地方9館15スクリーン減、近畿地方4館19スクリーン減となっている。2024年には、仙台市の「チネ・ラヴィータ」、所沢市の「新所沢レッツ・シネパーク」、東京「吉祥寺プラザ」、福岡「中洲大洋」といった永年地域に親しまれてきた既存館が閉館している。

– 人口規模と映画館

全市町村1719のうち、映画館があるのは303市町村18%にとどまっている。80%以上の1416市町村には映画館が存在せず、人口5万人未満の市町村の96%、1162の市町村には映画館が1館もない。映画館の空白地域が拡大している。これは、当たり前のことと思われるかもしれないが、文化を享受する権利において地域格差が生じていること、取りわけ、子どもたちの映画体験に大きな格差が生じるという点では大きな問題である。一方で、前述のように、中小都市において、新たに小規模映画館や定期的な上映の場をつくろうとする動きが増えている。これは、興行収入や観客動員数といった経済原理だけでははかることのできない、地域における上映活動の重要性を示す証左であると考えられる。このような上映活動を支えるためにも映画館の実態に対応した支援プログラムの実現が求められる。

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